第7話 雷の神
創造神がいて、五人の神がいる。
一神教ならリデンが主、あとは大天使か熾天使か、というところ。
その親子が海に立っている。
神に大きさなど関係ない訳だから、巨大な体にもなれる。
でもせっかくフォーセリアが作ってくれた大地だから、そこを踏み壊したくはない。
「かき混ぜる?それだけですか……」
フォーセリアが唖然とした顔で父の顔を見ている。
ルーネリアは父に背を向けているが、耳があまりにも目立ってしまう。
「親父、それこそ俺の海魔法、うずまキングの出番じゃねぇか!」
「リバルーズ、そういうのは無しだと父上が仰られていただろう!」
「ウッセーな。じゃあ太陽でかき混ぜてみろよ!」
「やめてよ。僕の大気がぐちゃぐちゃになっちゃうじゃん。こないだだって、雨降らしたいからって無理矢理……僕を……びしょ濡れに……」
「うっわ、最低。リバルーズ、エステリアの服は濡れたら大変なの知ってるでしょ? あんたまさか?」
何かもうすぐ修羅場を迎えそうだが、そもそも神は濡れない。
というより、よくもあのエステリアの演技に気付かないものだなと、主は感心していた。
我が娘がびしょ濡れになった姿を見ても、すぐに神だと分かるし、それが彼女の悪戯だと見抜くこともできる。
だが、それにしても話が進まない。
「フォーセリア、生命が自然発生で生まれる確率を知っているか?」
「大体10の4万乗の1と呼ばれていますが、それは他にも恒星がある場合の話です。一つの星しかないこの世界では極めて不可能かと。お父様、もしやそれを?」
「25mプールをかき混ぜたら偶然精密機械時計ができたり、竜巻が廃材からジェット機を作ったりできるのが神に与えられた時間を無視できるという力だ。そしてここには俺も含めて6人いる。」
「そうだぞ。父上は10の4万乗分の1を10の4万乗分の6にされたのだ。さすがは偉大なる父上だ。分かったか、皆各自持ち場につけ!」
「一番上は私なのだけれど……。相変わらず暑苦しいですね。でしたらお父様、かき混ぜる力のみで、生命を最初に生み出した神に、何かご褒美を!」
「あ、いいねー、それ。あたしもそれがいい!」
なんとも人間味が溢れている神々だ。
これも主神が持つイメージのせいなのか、それとも神とはそういうものなのか、それは新米神には分からない。
そもそも今まで聞いた神話の話があまりにも人間味がありすぎるのだ。
浮気は当たり前、近親相……。
当然、今の五神は主の子も同義、絶対に考えたくはない。
「で、エステリアとリバルーズもそれでいいか?」
「当たり前です。父上! よもやよもや、褒美を頂けるとは思っておりませんでした! 私めこそがその褒美を頂きましょう。」
いや、アレクスには聞いていない。
だが、絶対に乗ってくると思ったし……、と全てを見透す主神は最初から知っていた。
「じゃあ、何か褒美を考えとくから、みんなよろしく。一応俺もやるから、俺が先に見つけたらご褒美なしな。」
やっと作業が開始できる。
主神はともかくこれがやりたくて仕方なかったのだ。
先ほど例に出したあの奇跡、本当にかき混ぜれていればできるのか気になる。
そも、生命が生まれるのだ。
フォーセリアではないが、ロマンチックに感じる。
「えっと、僕……あの……手が……」
「大丈夫よー。お姉ちゃんが、そのセーターを腕まくりしてあげますからね。絶対に服が濡れないようにコーティングもしてあげますね! はい、エステリアはあっちですよ〜。」
エステリアには何か考えがあったのだろう。
それを巧みに読み取り、後の先をとったフォーセリアの勝ちだ。
……勝ちって何?
無論、そんなことは今のリデンには関係ない。
さぁ、かき混ぜようと海に近づく。
「じゃあ、セリアもお父様の隣でかき混ぜよっかなー。」
こういうリアクションは素直に可愛い。
海の底までは最大で1万メートルと聞いている。
当然、神に形という概念はないので、それくらいなら手を伸ばせば届く。
だからリデンも思いっきり手を伸ばして……、握られた。
「え、凄い握り返してくる何かがある。……って、フォーセリア、お前の手だろ。」
フォーセリアは主の隣5mほどのところで手を海水につけている。
通常ならば、そこから手を握れるはずはない。
人間の世界で起きたら、海から手を握る手がぁぁぁ!とか大騒ぎだろう。
が、彼女も神だ。
「お父様、これはまさに奇跡……ですね。ただ海中に手を入れただけで手と手が触れ合い、こんなにも絡み合っている……。これはもう、もう一つの大地を産まなければなりません……。お父様との二人目の赤ちゃんが生まれるんですよ?」
はい、アウト。
っていうか、一人目はフォーセリア単独で産んだ。
主神は必要ない。
可愛いところに騙されてはいけない。
皆は主神のことが大好きなのだが、それは致し方ない。
強引な女性が好きということはあっても、あくまで人間だった頃の話だ。
これは冷静に考える必要がある。
リデンはそう考えながら、フォーセリアと海中で他愛のない握手を続けた。
「よし、ご褒美を決めた。どうせこの後、作らないといけないんだしな。今後作る天界で各自の部屋を作る。そして役職も作る。生命を作った順に自分の役職の要望を叶えられる……ってので……。あぁ、良さそう。みんなはしゃぎ出した。これで作業が捗るな。」
どこにいても主の言葉は彼らには分かる。
向こうのほうで先程上がった水飛沫は、アレクスが魔法を使いながら海を大量蒸発させたせいだ。
蒸気が上がり、土砂降りになっている。
それにエステリアのシクシク悲しむ声も聞こえるし、リバルーズが怒鳴り声も聞こえてくる。
そして、エステリアを慰めるルーネリア。
——え、今?
目の前にはただひたすら海底にまで届くほどに腕を長くしたフォーセリアがいる。
フォーセリアは向こうの茶番には目もくれずに必死に海をかき混ぜている。
っていうか、どうも向こうにいるエステリアの様子が少しおかしい。
「ちょっと行ってくる! なんだ、この反応は……」
妙な違和感を覚えながら、リデンは四人が集まっている場所へと向かった。
僕っ子エステリアを中心に、三人が何か珍しそうに彼女を見ているようだが。
「お、お父さん! ぼ、僕……ふしだらな子供でした……」
「っていか、パパ、このバカ兄貴とバカ弟のせいよ。」
「いや、私は別に何も……」
「俺もそんなつもりは……」
「本当男って最低ー。この大気はエステリアちゃんが頑張って維持してるの。いわばエステリアちゃんの分身。その中で暑いやら水飛沫やら、ごちゃごちゃするから、エステリアちゃん、妊娠しちゃったじゃない!」
目を剥いた。
いや、まさかの超理論。
僕っこ、ロリ巨乳、まさかの妊娠⁉
と、慌てて見にいくと、特にエステリアの様子に変化はない。
だが、背後から、エステリアを守るように髪を逆立たせた男性が立っていた。
「……うん。ルーネリアもエステリアもちょっとタイム。これは勝手に生まれたってことで、いいんじゃないかな。普通に考えたら当たり前だし……」
大丈夫だ。
我が子たちのそういうのを見なくて済むように、この世界の神同士の子供は『謎のコウノトリX』が運んでくる。
そういう設定を書き込んでおいた主神の采配が輝いた。
よく見ると遠くに謎のコウノトリXが見える。
「オラの母さんだ。いじめる奴はオラがゆるさねぇ!ビリビリ、ドカンだぞ!オメェら‼」
ダメだ。
どこかの宇宙戦闘民族にしか見えない。
それくらいで動じる神ではない。
またパクリネタですか、とかもない。
電撃がビリビリきただけだ。
それで金髪が偶々逆立っているだけだ。
『雷の神レイザーム』
『雷魔法』
「はい。お前の名前はレイザームな。雷魔法は任せたぞ。つまりあれだ。海魔法と太陽魔法、それに大気魔法が融合されて新しい魔法ができたってことだ。これから先もこういう相関関係で成立する魔法が出てくるだろうから、俺が所有する本に自動記入されるようにしておいた。今回生まれたのは雷魔法。大気魔法に含まれるからエステリアにも使える筈だよ。」
「大気魔法に含まれる?ぼ、僕が母親なのは間違い無いんですか? 父親は? 父親……。お父さんはどう思いますか?」
えっくえっくと泣きながらエステリアが助けを求めるような目で訴える。
強いていうならリバルース、いや大気を熱したアレクス?
うーん。
二人とも?
そもそも海面が熱されれば雲ができるし雨が降る。
低気圧が高ければ高いほど、上昇気流が生まれて雲は電荷を持つ。
でも、強いていうなら……。
いや、主は絶対の神。
穏便に済ませることだってある。
「今回はチャラにしょう。その方がへっちゃらだ。でも一応、レイザームはエステリアの言うことをちゃんと聞くように!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます