第3話 太陽神
主は暗闇の中で、フォーセリアのお仕事をぼーっと見守る。
だって、彼女は大地母神、それが彼女の仕事なのだ。
なのだけれども。
「俺のサボってる感!社長って何もしないものだっけ?でもあれだよ?娘に働かせて、怠けているダメ親父に見えないか?……視線なんて気にする必要はないんだけれども。」
「お父様!フォーセリアはこんなことも出来るようになりました!」
彼女は嬉しそうに大地を作っている。
真の闇の中で怖いくらいに笑顔で作っている。
「あ、あれだな。多分、一人だけに働かせているからモヤモヤするんだろう。じゃあさっそく……」
主は次の神を作ることにした。
元々作る予定だった。
いや、実はさっき一度作っている。
物質としてだったけれど。
「名前……。一人称……。アマテラ……いや、女ばっか作るエロ創造神って思われるな。じゃあアポロン……、まんま過ぎてダメだな。パッと思いついた名前にしよう。こうしている間にもフォーセリアは暗闇で作業をしているんだ。」
『太陽の神アレクス』
「男の神。一人称は『俺』もしくは『私』。やっぱ太陽っぽくオレンジと黄色が混ざったような髪の色。……ん。こんなもんでいいだろ。」
主は再び両手を翳した。
自分の中のイメージ、先入観はどうも抜けないらしい。
なんとかギリシャ神話で描かれる服装に似てる。
「これはこれは、父上。私を産んでくれた偉大なる主よ。なんと素晴らしい。そして私も世界を作れば宜しいのですね。太陽を作りたいよう、なんちゃって。」
あれ、なんだこいつ。
いやいや我が息子だ。
「アレクスも大事な仕事だ。ほら、あそこでフォーセリアが大地を作ってるだろ。お前はあっちの端からそっちの端を魔法を使いながら、生涯移動し続けるという仕事だ。えっと必要な魔法は……」
光だけでもだめ、炎もなんか違う、熱……も違う気がする。
『太陽魔法』
だから面倒くさいので太陽魔法というものを作る。
小さな恒星を作れる魔法。
核融合なんかも気軽に起こせる火力最大級の魔法だ。
そんな魔法をこの世界のルールに書き込む。
「素晴らしい力です、父上。この魔法でこちらからあちらをずっと往復しておけば宜しいのですよね?」
「あ、いや。そうじゃなくて……」
そんな太陽は見たくない。
なんで東から西に、そして西から東に戻るのだ。
日が沈まない世界なんて、外が明るいだけのブラック世界だ。
リデンは息子の手を取って、こう動きなさいと示した。
長男もしっかりとブラック企業入りをさせる。
「んで、ここまできたら太陽魔法を止めて、さっき動いた時間と同じ時間をかけて、この大地の裏を……。——うわ、めっちゃ本格的に作ってんな、フォーセリア。裏面は誰にも見えないから適当でいいか、なんて思ってたけど。うーん、天空に浮いてる島みたいだな。」
「父上、私も負けません。必ず父上の期待に応えて見せます!!」
アレクスはちょっと天然でかつ暑苦しい性格になった。
そんな彼が一定のリズムで太陽魔法を使うので、その度に地上が照らされる。
「マジで正確なリズムで回っている。流石は我が息子だ。ちょっとはそれっぽくなってきたかな?」
そこで主は大地に降りてその様子を見ることにした。
地面は岩でゴツゴツしているが、ここからデコレーションするので問題ない。
なるほど、ちゃんと日の出と日の入りを繰り返しているように見える。
まだ大気と呼ばれるものもないので、東から西へと太陽が単調に移動して夜を迎える。
ただ、それは神の目において。
「えっと人間の網膜ってこれくらいだっけ……。——って、なんだこれ?虹色に輝いている……だと?まだ、大気がないから?……いや、大気が薄いからこそ色は変わらない筈……。この世界での光がおかしくなったのか?」
主は飛び上がって、指の先から光を発生させた。
もしかしたら光の性質が違うのかも、と試してもたが、この世界の光の法則は一般的な世界のものだった。
つまり秒速約30万km、空間に沿って真っすぐに進む性質を持っている。
神の能力ならば光の速度も目で追えるから分かる。
だが、それは放った直後だけだった。
彼が放った光はまるで真っすぐボールを投げた時のように放物線を描いて落ちていった。
「え?光が落ちた?……ああ、そういうことか。あ、あのぉ、フォーセリアさん?」
彼は声というより彼女の心に直接呼びかけた。
その場で会話も可能だったのだが、彼女はわざわざ地上に出てきてくれた。
そして恭しくこうべを垂れる。
「お父様、お呼びですか!もしかしてもうすぐで完成って分っちゃいました!?そうなんです!フォーセリア、やりました!」
褒めて褒めてー! という雰囲気が滲み出ている。
リデンが彼女の生みの親には違いない。
それにある意味で注文通りに仕事をしてくれたので頭を撫でる。
ただ、彼女を呼んだのは別の理由があったから。
「フォーセリア、本当に凄いぞ。裏の作り込みも凄かった!でも、お父さんちょっと肩凝ったかも。んー、もうちょーーっと重力魔法を弱めてもいいかな?フォーセリアも強い魔法だから、疲れるんじゃないかなぁって。ほら、ちょっと疲れたりするだろ。 えっとこれくらいに……」
リデンは頭を撫でていたついでに彼女に1G、秒加速度9.8mのイメージを送った。
「なるほど。目があっただけで勘違いしてしまう男の浅はかさくらい浅い力というイメージですね。」
「どんなイメージ?俺、そんな情報送った⁉……その浅はかさは認めるけれども!」
基本的にリデンの知識が彼らにも反映されているので、彼女もリデンの影響を大きく受けている。
子が親に似るのが当たり前のように、神が生んだ神も影響を受けるらしい。
「じゃ、そういうことでよろしく。出来れば鉱物系もいっぱい作っといて欲しい。いつかそれが新たな文化として根付くように、地表に近い方がいいかもな。」
「畏まりました。フォーセリアはお父様にさらに褒めて貰えるように頑張ります!」
そんな深緑の美しい美女と視線が一度交わった。
——ぬ、これは試されている⁉
いや、そんなことはないと主は唇を噛み締めて、今度こそ太陽神アレクスの様子を確かめる。
だが残念ながら、光の違和感は消えていない。
「あれと重力は関係なかったのか。それじゃあ、なんでだ?」
中央に立ってアレクスの動きを観察すると、やはり七色に輝いている。
七色と言っても、そう煌めいているわけではなくて、紫から赤に変わっていくだけ。
屈折率や光の透過率は関係なく、重力も関係なかった。
やはりおかしいと、主は再び光を放ってみた。
なるほど、今度はちゃんと真っ直ぐ光が飛んでいく。
厳密には重力に影響を受けているが、フォーセリアの言葉で言う、『モテない男の浅はかな考え』程度の力しか影響を受けていない。
そして、光の性質については先の説明の通り、いつか居た世界と変わらない。
だが、その光を追い越す野郎がいる。
本来、在ってはならない光よりも速く飛ぶ存在。
「はい、アレクス。ちょっと止まろうか!あ、いやいや、こっち来なくても大丈夫……、ってそんな悲しそうな顔をするな。こっち来て良いから!でも、その太陽魔法は眩しいから仕舞ってくれない?」
「父上!やはり、やはり見て頂けましたか? 私はちゃんと太陽してましたよ!姉上よりももっと凄いものをと頑張った甲斐がありました!」
そう、アレクスの言葉は1mmも間違っていない。
彼は間違いなく太陽役をやってのけてくれた。
ちょーっと飛ぶのが速すぎただけだ。
だからちゃんと頭を撫でてやらなければならない。
フォーセリアの頭撫でを見ていただろうし、神とはいえ子供は平等に接しなければならない、多分。
「よくやってくれている。ただ、未来永劫に回り続けるのは申し訳ないと思ってね。これくらいのスピードで飛んで、その後は裏で休んでいい。そもそも仕事っていうのは休憩も含むものなんだ。俺はもっとアレクスの動きをじっくり見守っていたい。」
そもそも直径1万キロのこの世界。
そこが三十分の一秒で昼夜が逆転する世界になっている。
30fps、ゲーム機の性能かな? と思うほどに一日が早すぎる。
もはや高速で点滅している昼間でしかない。
だから主は、地球の太陽の動きをアレクスの脳内に直接伝えた。
「なるほど。さすがは父上。ライブ配信でもコメントが多い時はコメ欄が速すぎて、配信者に読んでもらえません。確かにじっくりと私の活躍をお見せする方が良いですね。」
「その通りだ。投げ銭という手もあるが、投げ銭以外の他の視聴者のコメントを拾われると妙に悔しかったりするからな。俺はアレクスの活躍をちゃんと拾っておきたいんだ。」
どうして創造主が人間だった頃の経験が生んだ神に反映されているのかはさておき、アレクスはゆっくりと飛ぶようになってくれた。
こう飛べと言ったのは創造主自身である。
先に間違った手本を見せてしまったことをどうにか誤魔化せたので、彼はホッと胸を撫で下ろした。
そして主は再び大地の中心に降り立ち、この大地に人間レベルの昼夜が出来たことをしばらくの間観察していた。
「なるほど、やっぱりそうなのか。」
主は俯き、不敵な笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます