第5章 第2話 愛莉の行方 ブラックエリアへ
「巴サンもう来てるかな?」
「来てなかったら研究室で待つよ」
鼎と桃香は、巴に愛莉の目撃情報の詳細を聞く為にアカデミーブロックに来ていた。普段なら、もう研究室で作業をしている時間だった。
ーー
「あんな夜遅くに電話して来るなんて…」
「それは…ごめん」
研究室の椅子に座っている巴は、普段と比べて明らかに不機嫌そうだった。巴は机に並べていた資料を見ながら、淡々と情報を伝え始めた。
「水瀬愛莉と思われる人物が目撃されたのは、ブラックエリアの違法風俗店。多分そこで働いてる」
鼎は落ち着いた様子で、巴が伝える情報を聞いている。愛莉がどんな目に遭っていたとしても、焦れば事態が悪化するだけだからだ。
「ただ、今回は確定情報じゃない。アバターの見た目が以前と変わってるの」
愛莉のアバターは以前の黒髪ではなく、紫色の髪に薄紫色のメッシュを入れているものになっていた。犬耳も生えていて、大人しそうな雰囲気は失われていた。
「全然違う…のは髪型や犬耳だけだね」
「うん。顔立ちは私の助手をやってた頃と同じ」
ぱっと見では同じ人物とは分かりにくいが、よく見ると顔立ちは以前と変わっていない事が分かる。鼎も桃香も以前の愛莉を知っていたからこそ、一瞬で同一人物だと分かったのだ。
「真偽は不明だけど…あなた達は信じているのね」
「以前みたいに、別の人間が変装してる可能性はある」
「その時はボコボコにするだけだから、巴サンは安心して待ってて」
巴はいつもと変わらない彼女達を、研究室から送り出した。非常事態が起きる可能性はあるが、それでも鼎達なら乗り切ると思っていた。
ーー
「何度来ても、ここの怪しい雰囲気には慣れないな…」
「ボクにとったら、暗いし落ち着ける場所なんだけどね」
全体的に暗く、あちこちに怪しげなネオンライトが光るブラックエリア。裏社会にしか居場所が無い犯罪者達が多く集う場所だ。
「これから行く場所は、桃香のテリトリーじゃ無いんだっけ」
「そうだけど、これから行く場所は誰かのテリトリーじゃない。頻繁に抗争が起きているのを除けば、危険じゃ無いよ」
「抗争が起きてる時点で危険じゃん…」
「それでも、ブラックエリアの地理はボクの頭に入ってる。そこら辺のチンピラに遅れを取ることは無いよ」
桃香は自信満々だったが、鼎も彼女の事を信頼していた。ブラックエリアの賭場を仕切る桃香なら、抗争地帯なんて庭の様なものだ。
「大丈夫。違法風俗店に乗り込んで愛莉チャンを救出する、それで終わりだよ」
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