そらねこ くるる

にゃべ♪

第1話 流れ星に祈った結果

 瀬戸内海に面した穏やかで平和な街、舞鷹市。そんな地方都市にさきと言う女の子が住んでいました。小学3年生の彼女は白黒ハチワレ猫のくるると一緒に暮らしています。さきは優しい両親に愛されて毎日を楽しく過ごしていました。

 ある夜、何となく外の様子が気になった彼女は窓を開けて星空を眺めます。すると、スーッと一筋の光が流れていくのを目にしました。そう、それは流れ星です。


 流れ星を初めて目にしたさきは、すぐに手を組んで必死に祈りました。


「猫と話が出来ますように猫と話が出来ますように猫と話が出来……」


 彼女の願いは猫との意思疎通でした。一緒に暮らしているくるるとは、今でも言葉を超えた交流が出来ています。何となく彼が何をしたいのかが分かるのです。それでも会話がしたかったのです。テレビで動物の言葉が分かる人を目にしたのも、この願いを思いついた理由のひとつかも知れません。

 結局、願い事を全て言い終わる前に流れ星は消えてしまいました。ほんの一瞬で流れきるので、実際に流れ星に願いを言い終えた人はいないのかも知れません。


 さきは目をつむって願い事をしていたので、祈り終わる前に流れ星が消えてしまったのを知りません。なので、まぶたを上げた時はひと仕事を終えた充実感に満たされていました。

 祈り終えた後、彼女はくるりと振り返ります。


「やったよくるる! これで君と話が出来るようになるからね!」

「みゃあ?」


 話しかけられた白黒ハチワレは不思議そうに首を傾げます。猫に流れ星のジンクスは通じないので当然の反応でしょう。さきはそんな彼を抱き上げると、すぐに顔を密着させてそのまま猫吸いモードに入るのでした。


「はぁ~たまらん~」


 くるるはと言うと、そんな彼女の行為を甘んじて受け入れています。その表情は穏やかで、どこか達観しているようにも見えました。

 猫吸い終了後、さきはキョトン顔のくるるに必死に話しかけます。どれだけ話しかけても無口な彼に、さきは残念そうな表情を浮かべてため息を吐き出しました。


「どーして喋ってくれないのー!」

「……」


 流れ星に必死に願ったにも関わらず、結局願った猫との会話は実現しないまま。この事実に失望した彼女は、感情に任せて勢いよくベッドに潜り込みます。そして、そのままふて寝してしまいました。

 やがて窓から朝日が差し込みます。夜の闇は晴れ、もうすっかり朝になっていました。小鳥達が元気にさえずる中で、さきはまだ熟睡中。全く目を覚ましそうにありません。


「むにゃむにゃ~」

「さき、もう朝だぞ。起きるんだ。学校遅刻するぞ」

「ほえ……?」


 聞き慣れない声に呼びかけられて、さきはゆっくりまぶたを上げます。そのままぼうっと周りを見回した彼女は、いつもと変わらない部屋を確認して首を傾げました。


「だれえ……?」

「僕だよ、さき」


 また聞こえてきた聞き慣れない声に、さきは視線を落とします。そこにいたのはくるるでした。確かにその白黒ハチワレはいつもの猫語ではなく、ハッキリと日本語を喋っていたのです。少し大人っぽい声でした。

 この事実に彼女は目を丸くして、眠気も一瞬で吹き飛んでしまいました。


「嘘? くるるなの? 本当に?」

「おはよう、さき。それより寝坊だぞ。時計を見ろ」

「えっ?」


 くるるに指摘されて、さきは現在時刻を確認します。すると、普段起きる時刻から30分も過ぎていました。これは朝ごはんを抜いても遅刻しかねない時間です。その事実を知って、彼女は超焦りました。


「ヤバ! じゃあくるる、詳しい事はまた学校から帰ってからね、今日は速攻で帰るから!」

「ああ、たっぷり話そうな」


 さきは速攻で着替えて学校に行く準備をします。ただ、今日の支度もしていなかったので、それもしなくてはいけません。何もかもを中途半端にしながら妥協して、彼女は急いで部屋を出ました。

 台所につくと、とっくに準備されていた朝食が並んでいます。


「おはよう。やっと起きたのね」

「起こしてよもー!」

「起こしたけど起きなかったのよ。あんまり起きないから病気かもと思って」

「今日も元気100%だよー!」


 準備を急いだとは言え、全部食べていては遅刻確定です。さきはトーストだけをつまむとすぐに玄関に向かいました。


「ちょ、ちゃんと食べな」

「いい、遅れちゃう」

「学校なんて遅刻したっていいんだよ。それより」

「行ってきまーす!」


 こうして、さきは猛ダッシュで学校に向かいました。全力で走ったのもあって、何とか遅刻は免れます。この道中でイケメンの転校生にぶつかる事もなく、彼女はパンをしっかり食べきっていました。

 教室に入って席につくと、隣の席のまゆがさきに気付きます。


「さき、おはよ。どうしたの? そんなに汗かいて」

「寝坊したから走ってきたの」

「無茶するなあ。遅刻したっていいのに。先生怒らないよ?」

「私が遅刻嫌なの!」


 まゆが自分の母親と同じ事を言ったので、さきはちょっと気を悪くして大声になってしまいました。まゆはこの反応にちょっと驚きましたが、こう言うパターンには慣れていましたし、付き合いが長いので不問にします。

 さきの方も気持ちを吐き出してスッキリしたのか、すぐに話題を変えました。


「ねえ、昨日流れ星が流れたの知ってる?」

「え? そうなんだ、知らなかった。私まだ流れ星見た事ないよ」

「私も昨日初めて見たんだけど、願い事が叶ったんだよ!」

「えっすごい」


 さきは昨日起こった事を身振り手振りを加えて興奮気味に話します。流れ星に願った事、その時は何も起こらなかった事、寝すぎた事、そして、飼い猫がいきなり喋った事――。

 まゆはその話を途中でツッコミのひとつも入れずに黙って聞いてくれました。


「本当に猫が喋ったの?」

「本当だって! じゃあ今日帰りに家に来てよ。くるるの言葉を聞かせてあげる」


 こうして、自動的に放課後の予定は決まります。ここまでの流れで分かる通り、さきとまゆは休みの日にはよく一緒に遊ぶくらい仲のいい友達同士。なので、放課後にまゆがさきの家に行くと言うのもよくある事なのでした。

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