第6話 異なる宇宙の歴史を見る陰陽師
小さい子に引っ張られながらも、晴明は新しい空間に入った。ドームのようなもので薄暗い。天井のところどころに点々とした小さい明かり。宙に円球が浮いていた。触れられると思いきや、透かしている。
「映像か。かなり高度な技術だなぁ」
突っつくような仕草をして楽しむ陰陽師である。その様子を見ている子供は不思議そうにしている。困惑しているかもしれない。
「ん。それで操るのか」
子供は晴明を放置して、何かを操作し始めた。幼い子でも届く高さの台にボタンがいくつもある。液晶もある。晴明は似たようなものを知っているため、警戒することなく、周辺の変化を探っていく。
「これ星空だったんですね」
「そうらしいな」
光っている点々が動き出し、すぐに星空だと理解する彼らである。
「この世界のプー……なんだったかな。ああ。思い出した。プラネタリウムだ。それなのだろうな」
「それにしちゃあれですね。変じゃないですか? 虫みたいなのが」
式神の指摘通り、地球のものとは大きく異なっている点がある。ふよふよと浮く虫。よく見たら、黒くて硬いものに覆われている。それがひとつだけではない。複数も。固まって行動しているような節がある。
「ああ。妖に近いものかもしれんな。見ろ。未来の作品に出てくるようなものがあの球から出ておるぞ。あれだろうな。星空ではなく、遠い宙、宇宙と言う名の海だ」
陰陽師が楽しそうに見ている。金属で出来た人型の兵器が宇宙という海で戦っている。銃。剣。レーザー。様々な手段を用いて、浮遊している虫を討伐している。
「星喰いの性質を持つからこそだろうな。少なくとも私が見た未来の国ではないものだ。まあ。もっと遠いとこまで見たら異なるかもしれぬが」
陰陽師は目を細める。地球とは異なる惑星が持つ宇宙の歴史。晴明の目ですら見通せない世界がそこにはあった。
「そう言えば……何故晴明様は未来視があっても、それを人々に伝えようとしないですか? 見た物が知識となり、そこから生まれてくるものだってあるでしょう?」
晴明の発言に思うところがあったのか、式神が質問をしてきた。
「ああ。だってそれをやるとまた未来が変わるからね。どう影響するかすらも分からぬ状態で伝える馬鹿がどこにおる。それに知識自体が未知だからね。時代に適合しなかったら元も子もない」
一つ一つの虫が集まり、龍のようなものと化す映像。宇宙の船隊が光線を放ち、太くて禍々しいものが飛ぶ。耳に不快だと思わせる音を出し、虫の集合体が消え去る。あとは宇宙探索の時代と言わんばかりに、周辺の星まで飛ぶ宇宙船が出始め、そこで映像が止まった。
「ん。気にすることはないぞ」
子供が晴明の手をぶんぶんと振る。どうやって察したのだろうと式神が感じた瞬間だった。
「○○△!」
子供が先に明るい廊下に行く。元気が良いな。晴明はそう思いながら足を止めた。
「あの……晴明様?」
「そろそろ頃合いか」
迎えの者が来たためだ。世界を渡り歩き、歪みを修復する名のない神。どこの国の神話にすらない。男でもなく、女でもない。不思議な若い見た目をした者。それを見た晴明はバレたと悪戯がバレた時に見せる子供のような表情をする。
その瞬間、晴明と式神は地球ではない何処かの星から姿を消した。近くにいた子供は何も察知していない。いや。最初から晴明と共にいた記憶すらない。一人で遊んでいたという記憶になり、不自然のないように世界がそう作った。
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