第5話 書物の宝庫にて
ファストフード店みたいなところから出た晴明はようやく警察っぽい女性から解放された。
「意思疎通がしづらいとやりづらいなぁ」
「仕方ありませんよ。それは」
互いに言葉が通じないからこそのトラブルだった。晴明はそう結論付けて、現在地点を把握しようとする。摩天楼という名のビルの群れであることぐらいしか分からないのが現実であった。見慣れている現代日本の者なら何となく分かるだろうが、平安時代の陰陽師にとって全てが同じにしか見えなかった。
「はてさて。分からぬ」
「未来視出来てるお方が言うことですか」
この式神は時に主に対して鋭いことを指摘する。
「だって全部同じにしか見えない。地図があればよいのだが……な?」
式神の主はちらりと左側を見る。ビルではないため、ひと際目立っていた。平安の日本では交流のない遠い西洋の国の者が手掛けたような現代的なデザイン。シンプルだが、センスがあると思わせる灰色の四角の二階建ての建物だ。大きいガラスの窓から光が溢れている。
「え。あの。晴明様?」
吸い寄せられるように、晴明は建物に近づいて行く。恐怖を感じたのか、式神が慌てている。止めようと耳を噛みついているが、彼の歩みは止まらない。
「書物だ。書物だぞ」
硝子の窓から書物が詰まった本棚。それを見た晴明は子供のように目を輝かせている。
「よし。入るぞ」
即決断する。仕事も私事も変わらないのがこの陰陽師である。やや子供染みているのはプライベートだからだろう。きっと。
「文字読めないのにですか」
とはいえ、式神の指摘通り、晴明は読むことすら出来ないのが現状である。どうするのだろうという疑問を持つのも無理はない。
「絵を読めばいい」
「それで解決出来るもんですか?」
「ああ」
普通に入った。周りとは違う姿をしているため、視線が集中していたとしても、彼の歩みは止まる事がない。音を立てず、優雅に歩くその姿は地球の若い女性なら惚れてしまうものだろう。生憎ここは別の星なのでそういったものはないが。
「ん?」
様々なコーナーがあると感じ取った陰陽師はぶらぶらと散策する。その途中で右往左往する緑色の肌の子供を見つけた。書物があるところから少し離れている。陰陽師は千里眼を使って、何があるのかを見る。金属の壁と床。その先にあるものは未来の機械の密集としか言いようがない。そもそも未来まで見通せる能力を有してはいても、知識を完璧に持っているわけではない。限界があるのだ。
「晴明様、何がありますか」
「ん。少なくとも機械の類があるのは確かであろう。だがそれ以外は分からんな。行くか」
「えー……」
躊躇せず近づこうとし、貪欲に行く主にドン引く式神である。止める気はないのか、何も行動を起こさない辺り、何だかんだ彼の式神なのかもしれない。
「何か困ったことがあるのか」
別の星の子どもに通じない。それでも話しかける。その子は彼の発言の意味を理解していないだろう。しかし分かったのだろう。顔を明るくし、初対面のはずの晴明の右手を掴む。式神の毛がぶわりと逆立つ。
「此奴何するつもりで」
「まあ様子を見ておこう。悪気はないようだ。おっと」
引っ張られていく。こういう時は未知なる道に入る。それを知っている晴明はフッと笑っていた。
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