第4話 ファストフード店(?)へ

 許可を貰ったため、襟から何かが出てくる。小さくて可愛らしい白い狐。晴明の式神である。


「よいしょっと。うーん」


 ぐいっと身体を伸ばす式神。その時だった。警察っぽい感じの女性が戻って来たのだ。目と目が合う式神と女性。


「○○!」


 目を輝かせた女性が何か言った。察した晴明は己の式神を鷲掴み。


「おい!?」


 式神の抗議をスルーし、女性に手渡し。


「きゃう!?」


 女性はぎゅっと式神を抱きしめた。本来は式神にとって、苦痛のものなのだが、この女性はお胸が大きい。そして式神はだいぶスケベである。そういうこともあり、


「えへへー」


 めちゃくちゃ緩んでいた。式神は元妖怪で人を恐れられる存在だが、その片鱗すらなくなっていた。それでいいのか。妖怪。


「〇××〇△」

「ん? どこかに行くのか」


女性に引っ張られた晴明は現代日本でいうファストフード店に。清潔感漂う明るい店内。若者らしき者達がいる。恰好も現代日本の若者に近い。そういうこともあってか、平安の狩衣姿の晴明は目立っている。


「晴明様。浮いてますね」


 青年の声の者、小さくて可愛らしい白い狐の式神。フライドチキンに似た何かをがっついている。


「仕方ないだろう。私達はよそから来たのだからな」


 晴明は「ずずーっ」と汚い音を出して、ストローでどろどろとしたブドウ味に近い何かを飲む。硝子のように丈夫で、プラスチックのように軽い不思議なもので出来た入れ物を置く。


「ん。帰って来たか」


 ようやく解き放っていたトンボに似た式神が彼の手に戻った。


「私達がいる星の未来ではないことぐらい、予想はしていた。ご苦労」


 晴明は右手でふんわりとした揚げたパンを取り、頬張る。口元に橙色の甘い粉が付いており、上流の者とは思えない食事の仕方だった。


「これ……弟子に見せられませんね」

「何を言っておる。これこそ正しい食い方ではないか。少なくとも私の子孫はそうやっているぞ」


 現代で言うどや顔をする陰陽師がここにいた。


「ここまで汚くないですよ。少なくともあなたが一番酷いです」

「そうらしいな。いらぬいらぬって。それぐらい自分で」


 何かを思ったのか、女性が晴明の口元を紙で拭こうとしていた。手でやんわりと断る仕草をしても、効果が何一つもない。幼子のように口元を綺麗にしてもらった晴明であった。これも世界、或いは星が異なるためだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る