第5話 黒雲

「離してよー!」


「コラッ! 大人しくしなさい!」


 逃走に失敗したミギテが男に捕まっている! 放っておくわけにもいかないよな……クッ! 戦うしかないかっ!


「ミギテを離せっ! 俺が相手になるぜ!」


「君たち公務執行妨害で……うぐっ! う、うぅ……」


「「!?」」


 ミギテを助けようとしたそのとき、男はミギテを掴んだ手を離すと、突然苦しそうに喉元を指先で引っ掻きはじめた。


 顔色が次第に青白く変化していくのが分かる。


「なっ! なんだっ!?」


 男は上空を見上げたまま、大きく口を開き微動だにしなくなった。


「ジンタイ様! 男の口元から何かが!」


 暫くすると、その口元から真っ赤などろりとした、かたまりのようなものが現れ、それは空へと浮いていく。


「こ、これは……」


 俺とミギテは一度互いに目を合わせると、その物体に視線を戻した。


 その物体の先にある空からは、いつのまにか青色が消えている。


「黒雲が……」


 この空……まるで俺たちの星の……。


 ――きゃあぁぁぁっ!


「なんだ!?」


「ジンタイ様! 人間たちが次々と倒れてっ!」


「なっ! 何が起きているんだ!」


「わかりません……ですが見て下さい! 倒れた人間たちの口元からも、あの物体が……」


 俺たちの周りにいた人間たちは次々と地面に倒れていき、その口元から現れたそれは吸い込まれるように黒雲と化した空へと飛んでいく。


 その先には……。


 チッ……。


「あの黒雲が現れたときから嫌な予感はしていたが、どうやらそいつは的中ってところだな……ミギテ、気をつけろよ」


「おろ?」


「物体の飛ぶ先をよく見てみろ……見覚えのある奴が隠れていないか?」


「あー! あいつ!」


 俺たちの目線の先には、黒いマントを羽織った馬の頭をした者の姿があった。


 オロバス……。


「黒マント野郎……まさか、こんなに早くに再会するとはな……しつこい野郎だぜ」


「戦いますか?」


「へへ……あったりめーだっ!」

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