短編小説「節約」
門掛 夕希-kadokake yu ki
家に帰りたくない
「
「
なんだ、少しは期待してたんですよ。と、薫先生は言ったが、斎藤先生の方は気にしている様子はない。少しして斎藤先生が、「薫先生が捕まって帰れないってのはどうでしょう?」と、薫先生へ提案した。ふざけていることを隠すため口元にコーヒーを持っていったが、つり上がった口角全ては隠せなかった。
「そんなの絶対バレますって。なんかふざけてませんか?」「じゃあ仕事が忙しいとかどうでしょう?」斎藤先生は今度は薫先生と目線を合わせながら、真剣な表情で提案した。誠実さを伝えながら内容は先ほどと同様にふざけてる。意図としては一蹴されるための提案であったが、返答は意外なものであった。
「私実は去年と一昨年はその手を使ってるんですよ。流石に三度目は……。それに私ら教職ですよ、そろそろ怪しく思いません?」薫先生の言葉から、薫先生に常識がないのは証明されたが、二年連続で騙される家族も家族である。斎藤先生は薫先生の繰り出す荒唐無稽な話のタネには慣れていた。これくらいの衝撃では最近は驚かない。「いやでも、もう一年だけならいけますかね?」と、最後に薫先生が付けたした。
「いけるわけありませんよ!」斎藤先生の声が職員室に響いた。
そんな調子で雑談を続けていると、「家にはちゃんと帰らないと駄目ですよ。でもどうしたんですか、家で待つ旦那さんと喧嘩でもしたんですか?余計なお世話かもしれませんが相談でしたら私ものりますよ」
「すみません伊藤教頭、たぶん勘違いをさせているようです。安心してください。家にはちゃんと帰りますし、夫婦仲も良好です」薫先生は教頭先生に微笑んで答え、そしてこう付け加えた。
「帰りたくない家というのは、来週の実家のことなんです。職業選択したくらいですから勿論子どもは大好きですけど、お正月に親戚の子どもへ会うと不要な出費が課せられるじゃないですか?節約もしなきゃいけないんで、どうしても会いたくないんですよね。だから、帰らないで済む理由を模索してるんです」
薫先生の話しを聞いて、伊藤教頭はつい先ほどの斎藤先生と似たような表情を作った。勿論眉はもう下がってはいない。
短編小説「節約」 門掛 夕希-kadokake yu ki @Matricaria0822
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