117:VSレギンレイヴ――その3

 レギンレイヴが新たに取った戦法は、ルーン魔術が主体となっている戦い方だった。


 攻守をバランスよく行うよりも攻撃に重点を置いた方が良いことは、1つ前の過去改変でバレてしまっている。けれど僕たちを近接戦闘で1人ずつ倒すのは無理だということも、僕たちは証明してみせた。


 そういうわけでレギンレイヴはルーン魔術を駆使して、僕たちを一度に倒してしまおうと試みているようだ。


「戦乙女は勝利の女神! 絶対に負けません!」


 レギンレイヴは白鳥の羽衣を使って空を飛んでいた。そして上空から『動きを縛る吹雪』や『ラーンの網』などの範囲攻撃に適したルーン魔術を爆撃のように降り注いでくる。


 僕たちエインフェリアは空を飛べないため、制空権を握られるとやや戦いづらい。対処法が限られてくる。


 空を飛ぶ敵への対抗手段は大きくわけて2つある。遠距離から攻撃するか、こちらも空中へ赴いて空中戦をするかだ。


 僕たちが持っている遠距離攻撃手段は3種類ある。ルーン魔術、ヴァーリの弓矢、心子さんのレーヴァテインだ。とはいえ、遠距離攻撃は回避されやすい。


 やっぱり近接戦闘よりもこちらの手数が減ってしまうのが痛い。近接戦闘なら人数差を活かして何とか追い詰めることができていたが、遠距離攻撃だとそうも行かなかった。レギンレイヴには時間加速があるので、攻撃が届く前に射線から身を外すのも簡単だ。範囲の広い攻撃も空間転移で逃げてしまう。


 レギンレイヴを追い詰めるには、こちらも空を飛ぶしかないだろう。空中戦が可能なのは僕とヒカちゃんの2人だ。


 ヒカちゃんはレギンレイヴと同じように、白鳥の羽衣を使って空を飛ぶことができる。そして僕も、空間転移を連続発動することで疑似的に空を飛ぶことができる。


 時空操作魔術で空中戦を行うには、空間転移の連続発動が不可欠だ。そうなると心子さんには難しい。というか、仮にできたとしてもエインフェリアではない心子さんに近接戦闘はさせられない。一応は重力操作で飛べなくもないが、大味な制御しかできないので役に立たない。


 また、生成した障壁を乗り継いで戦う選択肢も無くはないが……。障壁は『魔術的強化を解除する』ルーン魔術で搔き消されてしまう。相手に消されてしまう足場に命を預けられない。


「ああくそ、なかなか当たらねぇな」


 ヴァーリがそう毒づく。


 レギンレイヴが白鳥の羽衣でただ飛んでいるだけなら、ヴァーリはもっと簡単に命中させられただろう。だけどレギンレイヴは時間加速を自在に操ってヴァーリの矢を回避する。


 時間加速の恩恵は、ただ動きが早くなるだけじゃない。緩急のつけ方も自由自在なのだ。普通に考えれば命中する軌道でも、一瞬だけタイミングをずらすことで無理やり回避することができる。


 僕とヒカちゃんが空中戦を仕掛けてレギンレイヴを誘導することで、レギンレイヴに攻撃を命中させる。それでも避けられることの方が多い。僕たちはなかなか攻撃を決めることができないでいた。


 ……けれどレギンレイヴもまた、僕たちを攻め切れていなかった。


 レギンレイヴが過去改変をしたとしても、戦闘時間が巻き戻っているわけではない。あくまで現在を基準として過去を変えているだけ。まだ決着がついていないということは、それだけ戦闘が長引いている。


 僕たちが有効打を与えられていない理由は上述した通りだが、レギンレイヴが僕たちに有効打を与えられていないのは選択した戦術に理由があった。


 レギンレイヴは僕たちに回復のタイミングを与えてはならない。そのために僕たちを一度に全員倒しきる必要がある。だけど、その手段としてルーン魔術を選んだのは失敗だった。


 時間加速によってレギンレイヴの方が手数は多くなっていても、ルーン魔術そのものに優位性は無い。彼女の優位性は、彼女がタウィル・アト=ウムルということにある。それを活かした戦い方ができないなら、レギンレイヴが僕たちに勝てる道理はない。


 ……いや、その優位性を活かした戦い方は前回の過去改変前で見た。だけどその戦い方では僕たちを倒しきれなかった。つまり、彼女は既に最良の戦い方を試した上で僕たちに負けている。もう何をどうしたって、何度過去を改変したって、レギンレイヴが勝つことはないだろう。


 レギンレイヴもそれを悟ったようで、絶望の表情を浮かべていた。


 彼女が本来の肉体で戦えるならそれを活かす道もあったかもしれないが、僕の世界のヒカルの肉体で戦っている以上は空論に過ぎない。


「そんな……。み、身を守りさえすれば、少なくとも負けはしないはず……!!」


 レギンレイヴは過去改変を再び試みる。


 改変後のレギンレイヴはタウィル・アト=ウムル特有の障壁を張りなおしていた。確かにこの状態なら、僕たちの攻撃は通らない。


 だけどその特殊な障壁の破り方を僕たちは知っている。僕は銀の鍵を通じて、僕の世界のヒカルに問いかける。


(ヒカル、僕と一緒ならあの障壁を打ち消せるよね)


(もちろん! ちょっと時間はかかるけど、大丈夫だよ)


 レギンレイヴは障壁の維持に力を割きすぎていた。そのせいで攻撃に意識を割り当てることが全然できていない。


 そんな状態で僕たちを倒せるはずもないし、肝心の障壁も時間がかかりはするものの、僕とヒカルに破られてしまう。


 僕たちは障壁を破った瞬間にレギンレイヴへ攻撃を加える。障壁はすぐにレギンレイヴに張りなおされてしまうが、また破ればいいだけだ。あとはそれを繰り返す作業だった。


「そんな、平和な世界はすぐそこなのに……! 認めません、認められません! これでは……これまで私は何のために……!」


 レギンレイヴは過去改変をもう一度行おうとする。だけど、もうこれで4度目だ。


(ユウ君、お待たせ。今度こそ成功させてみせるね!)


 僕とヒカルもやっと慣れてきた。これ以上、過去改変は発動させない。


「あぁ……! 邪魔しないで、ヒカル!」


 今だ。この状態なら、レギンレイヴの精神を夢の狭間に連れて行ける。


 あとは邪悪な心子さんの時と同じだ。夢の狭間でレギンレイヴの精神を滅ぼせば、ヒカルとこのパラレルワールドを救うことができるだろう。僕は仲間たちとレギンレイヴの精神を連れて、夢の狭間へ転移した。



 ◇



 夢の狭間は与えた情報によって変容する空間だ。例えば心子さんの精神の影響を受けたときは、何もない荒野となっていた。


 今回はレギンレイヴの精神の影響を受けているはずだ。辺りを見渡すと、そこには穏やかな花畑が広がっていた。


 オーディンが支配していた神話の時代には、こんな平和な場所は存在しなかった。あの時代には、死と氷と戦争しか存在しなかった。


 この優しい空間には、レギンレイヴの夢と願いが詰まっていた。


「みんなを幸せにしたい……。争いの無い世界にしたい……。誰かが傷つくのは嫌……。苦しんで死んでいくのを見るのは嫌……!」


 レギンレイヴの声がして、僕たちはそちらの方へ振り返る。


 そこには人の形は辛うじて保っているものの、ぐちゃぐちゃに混ざって継ぎ接ぎになり、一部が崩壊しては再結合を繰り返す精神のキメラが立っていた。


「これが、レギンレイヴの精神?」


「ぐちゃぐちゃじゃねぇか。よくもまぁ、形を保ててるもんだぜ」


 視覚情報として認識すると本当に酷い有様だ。これでは長く持つはずがない。仮にレギンレイヴが計画を成就させることができても、いずれ破綻するのは明白だ。


 ヒカちゃんがレギンレイヴの精神を見て息を飲んだ。そして決意を秘めた瞳で僕を見る。


「破綻が見えている計画を無理に実行するなんて、きっと本来のレギンレイヴも望んでないよね。絶対に止めないと!」


 ヒカちゃんの言う通りだ。レギンレイヴの暴走は僕たちが必ず止めて見せる。


「みんな、これが本当に最後の戦いだ。決着をつけよう!」


 僕たちは崩壊しつつあるレギンレイヴの精神に立ち向かった。


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