忠告
「雪雅様、ありがとうございます」
華乃は心の底からほっとしたように微笑んだ。
雪雅もそれに
「飛鳥殿も成長していて驚いただろう?」
その言葉に華乃はきょとんと目を瞬いて首を傾げた。
はて、飛鳥という知り合いがいただろうか……?
「覚えてないかい?雅冬と一緒に遊んでいただろう?」
確かに雅冬様は随分と気安く相手をされていた。それだけ心を許せる相手なのだろう。
けれど、華乃にはそう言われても飛鳥という名に心当たりはなかった。
「あぁ、彼の国では
「とびまる……。あの飛丸様ですか!?彼が!?」
あの引っ込み思案で泣き虫だった可愛い飛丸様が何をどうやったらあんなにチャラくなるんだ!?
華乃は信じられない思いで幼少期の彼を思い出した。
しばらくこの城に預けられた彼は雅冬のよきライバルだった。
勉学でも遊びでも雅冬があんなに張り合ったのは彼だけだ。そのたびにどうしてそんなに対抗心を燃やされるのかわからずに紫月に泣きついてきていたのが飛丸だった。
それを見た雅冬がまた珍しいことに癇癪を起したりしたものだから、華乃にとって彼はとても印象深い人物だったりする。
「時の流れは残酷だねぇ」
信じられないという顔をする華乃に雪雅はのほほんと笑う。
「本当に……」
それに応えるように華乃は呆然と呟いた。
あの可愛かった雅冬様と飛丸様が……!! という思いでいっぱいになる。
成長を喜ぶべきなのだろうがそれよりもどうしてそうなった!? という突っ込みをいれたくてしかたがない。
そんな華乃をしばらくあたたかく見守っていた雪雅だったが、華乃が現実に戻ってくると珍しくまじめな顔をして華乃を見た。
「ねぇ、華乃。お前は気づいていないだろうけれど……」
「雪雅様……?」
「いや。私が言うべきことではないね。
だけど、覚えておいで。お前は
真剣な顔で予想だにしなかったことを紡ぐ雪雅に華乃は否定することさえできなくなった。
傾城。
本来なら国を傾けるほどの美女の意味だ。自分に当てはまることはない。
それなのに笑って否定することができないのは雅冬の執着を無意識に自覚しているからか。
「でもまぁ、そんなことになったらお前はまた遠くに行ってしまいそうだからおじさんたちは全力で阻止するけどね!!」
「雪雅様のおっしゃる通りだ。お前は好きに動けばいい。
面倒ごとは我々が負ってやる」
「雪雅様、父上……」
くしゃりと顔を歪める華乃に雪雅は優しく微笑み、黎季はくしゃりと華乃の頭を撫でた。
傾城。
この国においてそれに当てはまるのは花街に君臨する花魁でも雅冬の妻の座を狙う姫たちでもない。
それは、
本人に自覚はないが、なくてもいい。
自分の持つ影響力をまだ把握しきれていない華乃が傾城に成り得るかもしれないということを心の片隅にでも残しておいてくれるなら、今はそれで十分だ。
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