第21話アロマとセラピー

「おかえりお兄ちゃん! おかえりのちゅー♪」


帰るなり抱きつこうとするアニーをデコピンで撃退する。


「いった~!? 何するのよ~っ!」

「気持ちは嬉しいが、幾ら何でもやりすぎだ。目上と接する時は節度ある態度でと教えたよな」


まぁ全然嬉しくはないんだが。一応期限くらいはとっておく。俺は大人だからな。


「むぅ……お兄ちゃんだってまだ子供じゃん……」

「精神的には少なくともお前より数倍は大人だ。故に、俺の言う事をちゃんと聞くこと!」

「はぁーい」


むすっとしながらも頷くアニー。

目上としてしっかり説教しておく。子供ってのは甘やかしたらどこまででも付け上がるからな。

特にアニーのような能力のある子供は大人を舐めてかかるものだ。いざという時言う事を聞かないようでは道具としては使えない。


「……わかったならよし。じゃあ早速調合してくれ」

「おっけー!」


わかっているのかいないのか、アニーは調合室へ入るとガチャガチャ準備を始める。

そして薬瓶の中にシレン草と様々な薬剤を投入、魔力を込めながら更に混ぜ合わせていく。


「まぜまぜまぜまぜ……出来た!」


どうやら完成したようだ。

淡い光を放つ調合薬を瓶の蓋に入れ、俺に手渡してくる。

おお、火を付けてなくても仄かな香りを感じる程だ。匂いを嗅ぐと心が洗われるようである。流石はアニーだな。


「ありがとう。いい仕事だ」

「えへへ~まぁね~」


照れ臭そうにしているアニー。さて、報酬を払うとするか。えーと財布はどこだっけ……

探していると、数人の魔術師たちが部屋に足を踏み入れてくる。


「おおっ! ようやく見つけたぞアニー殿!」

「一体どこに行っていたのですか! 仕事は山ほど残っているのですよ!」

「さ、早くこちらへ!」


あれよあれよと魔術師たちはアニーを担ぎ上げていく。


「ちょ、ちょっと皆待って待って! きゃー! お兄ちゃん助けてー!」


……どうやら仕事をさぼっていたようである。俺の監視なんかしてるからだぞ。

ようやく財布を見つけたものの時すでに遅し。アニーは既に遠くへと運ばれた後だった。


「報酬はここに置いておからな」

「そんなのいいから一緒にご飯を~……」


聞えてるのかよ。さっさと行っちまえ運搬係。

遠ざかっていく声を聴きながら、俺は机の上に報酬を置いて帰るのだった。


そうして教会の寄宿舎に着いた俺はレゼに会う為に中へ入ろうとして――やめた。

代わりに外へぐるっと回りレゼの部屋の真下で腰を下ろす。

香炉を付けるといい匂いが漂い始めた。


――記憶というのはふとしたことで蘇る。

俺の顔を見ながらではあの時のことがフラッシュバックし、十分な効果も得られない可能性があるからな。

精神的な治療は直接の原因から遠ざけるのが一番である。

べ、別に合わせる顔がないとかじゃないぞ。

一応、次に会う時は普通の笑顔でと思っただけだ。


「それにしてもこの香炉……すごい効果だな……」


半端ではないリラックス効果だ。さっきまでの疲れが消えていくようだ。

意識も……薄れて……ぐぅ。


――そして、気づけば夜になっていた。


「やべ、寝てた」


俺としたことがつい寝入ってしまったぞ。全く大した効果だな。


「……ん?」


見れば俺の身体には毛布が掛けられており、更には書置きも残されていた。

レゼの字だ。どうやらこの姿を見られてしまったようだ。

えーと……「心配ありがとうございます。おかげで久しぶりによく眠れました。エリアスさんも良く眠っていたようですので布団をかけておきますね。風邪を引きませんよう」

……ぐっ、恥ずかしい。俺は周知に顔を赤く染めながら、布団を返しにレゼの部屋を訪ねるのだった。

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