消えた親友 Another
ごめん、マグナ。
僕は、もうここには居られない。
誕生日を迎えた今日、僕は珍しくマグナより先に起きていた。
今日はマグナと一緒に休暇を貰っている。
僕の誕生日という事で、南区へ遊びに行く約束をしていたのだ。
とても爽やかな朝、僕は支度をしようと鏡に向かった。
顔を洗おうとして、気付いた。
手に、見慣れぬ植物が芽生えている。
僕は植物に詳しくは無い、でもその植物の名が、ふと見ただけで分かった。分かってしまった。
その芽は「ライラック」。
今にも成長せんとするその芽は、非情にも僕が最早「こちら側では無い」という事を物語っている様だった。
「緑化症」
僕らアルティクスの軍人は、ミシェル最高指導者の指令によってレベリオを討伐する事が主な仕事だ。
それ以外にも、都市の巡回等やることはあるが、それら全てはレベリオを完全に討伐するため。
そして、レベリオは皆その「緑化症」に感染しているとの事だった。
僕は焦った。
外へ行かなければ、緑化症には感染しないと、そう思っていた。
けど、僕は感染している。
どうするか、逃げる⋯?でも、今⋯?
「おはよう⋯、アルマ⋯。私より早いの珍しいね⋯。」
そうこうしている内に、マグナが起きてきた。
なるほど、寝惚けている時は敬語じゃないのか。
可愛いな。初めて敬語じゃないマグナを見たかもしれない。
違う、そうじゃない。隠さなきゃ。
少なくとも、マグナの前では普通で居なきゃ。
「おはようマグナ!そりゃ自分の誕生日だからね!朝早く起きたくもなるさ!」
「あ⋯、そっか。誕生日おめでと⋯。プレゼント、出かけてからでもいい⋯?」
可愛いな⋯!なんだそのふにゃふにゃ加減は。
いつものキリッとしたマグナはどうしたんだ。
って違うだろ!
今この手を見られる訳にはいかないだろ!
そう思い、僕は芽を隠す様に包帯を巻いた。
「いいよ!マグナが支度終わったらすぐ行こう!」
「分かった⋯。じゃあ、ちょっとまって⋯⋯⋯。」
マグナがハッとした顔でこちらを見る。
「えっと、私、今、あの、変じゃ⋯、無かったですか⋯?」
ここまで焦るマグナは珍しい。
普段は何考えてるか分かんないような顔をしているが、今は燃えそうなくらい赤面している。
「大丈夫、可愛いだけだから。」
「ってことはやっぱり、ごめんなさい、私寝惚けて⋯。」
「大丈夫だって、僕以外見てないんだから。」
先程までの僕の不安を吹っ飛ばしてくれるようなマグナに、僕は感謝していた。
そして僕は、明日ここを出ることを決意した。
マグナに、迷惑をかけてしまうことが無いように。
南区での買い物を終え、夕飯を済ませ、マグナから貰った予想外のプレゼントに驚き、あっという間に一日が過ぎた。
普段は所謂「ポーカーフェイス」なマグナだが、今日はとても表情豊かだった。
寮に戻り、寝る支度をして、マグナと少し話した。
「今日は楽しかったなぁ⋯。普段見れないマグナも見れたし、何より、お揃いの名前入りブレスレットをくれるなんて思ってなかったよ。」
「ずっと前から考えてたんです。何を渡したら喜んでくれるのかって。楽しんでもらえて良かったですよ。私も、とても楽しかったです。」
「また明日からも頑張ろうって思えたよ。ありがと、マグナ。」
「こちらこそ、ありがとうございます。アルマ。」
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
そうして、電気を消した。
マグナの寝息が聞こえてくる頃、僕は未だに眠れずにいた。
僕に、いつも通りの明日は来ない。
明日はここから僕が消える日だから。
「離れたくないなぁ⋯。」
ふと、涙が零れた。そうして零れた涙は、止まることを知らず、僕が短い眠りにつくまで枕を濡らし続けていた。
「じゃあね、マグナ。僕はもうここには居られないから。外で、僕は僕なりに出来ることをするよ。孤児院にいた時から、今までずっと僕と仲良くしてくれてありがと。大好きだよ、マグナ。僕の大事な親友。」
マグナが起きぬよう、小さな声でそう呟き、僕はこの都市を後にした。
マグナに貰ったブレスレットと、両親の写真が入ったロケットと、僕の誇りである軍服を持って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます