消えた親友

訓練兵から一等兵に上がって一年。

ようやく正規兵と言う立場に慣れてきた頃、それは起こった。



「アルマ、早く起きないと遅刻しますよ。」



⋯⋯。返事が無い。



「アルマ?まだ寝てるんですか?昨日、誕生日だからと言ってはしゃぎすぎたのでは?」



やはり、返事は無い。

おかしい。

普段なら、「あと5分」などと何かしら返事は帰ってくる。

それなのに、何も帰ってこない。

息遣いすら聞こえない。



「アルマ⋯?まさか⋯。」



普段は決して捲らない布団を勢いよくひっぺがす。

そこに、アルマの姿は無い。

よく周りを見渡してみると、普段は壁にかけてあるはずのアルマの軍服が無い。

それに、彼女の1番大切にしていたロケットが無い。

部屋以外では決して外さず、肌身離さず持っていたそれが無い。

「私より先に起きて食堂へ行ったのかもしれない」というよりも、そうであって欲しいと願う自分がいた。


普段は談笑している廊下を早足で抜ける。

ここで走って、誰かに捕まってしまえば、時間のロスになる。

そうして食堂に着いたが、そこにアルマの姿は無かった。


中佐の元へ。

私達2人は、運良く訓練兵時代の教官であったジャック・スチュアート中佐の元で働くことになった。

いるはずは無いが、そこに居なければ一体何処へ行ったのか分からない。

焦る気持ちを一度落ち着かせ、扉をノックする。



「早朝にすみません、スチュアート中佐。少し、お時間よろしいでしょうか。」


「あぁ⋯、いいぞ、入って。どうした、マグナ。いつもの相棒はどこ行った⋯?」



早朝の中佐は、いつもより枯れた声で応えた。

そして、その言葉で中佐の部屋には居ないと分かった。



「アルマが、居ません。」


「⋯⋯、本当か?それは。」



少し水を飲んで多少声が戻った中佐はそう言った。



「冗談でも言いません、こんな事。」


「そうか、いや、そうかもしれないが。」



戸惑っている様子だった。

当然だ、私だって最初に気付いた時は焦った。

そして、今も焦っている。

何処へ行ったのか。何故出ていったのか。

私に何か不満があったのだろうか。軍に居るのが嫌になったのだろうか。

様々な考えが頭をよぎる。

そして、しばらくの沈黙の後、中佐が話し始めた。



「探そう。今はそれしかない。」


「はい、でも、私が、探しても⋯」


「いいか、落ち着け。不安も沢山あるだろうが、今は捜索が最優先だ。焦りすぎるな。大丈夫だ、きっと見つかる。」


「はい⋯。」


「今日は休暇にする。俺も休暇を取る。だから、仕事の方は心配すんな。責任は俺が全部背負ってやるから。」



こうして、私と中佐は一日中、都市内の出来うる限りを捜索した。

夜遅く、声が枯れるまで、足が棒になるまで、探し続けた。

それでも、アルマは帰ってこなかった。

私は、生まれて初めて出来た親友を失ってしまった。


私は、今でも都市の巡回中、消えてしまった親友を探し続けている。

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