ジャックとの出会い
「お前、大概な無茶するんだな。」
そう私に声をかけたのは、教官のジャック・スチュアート少佐だった。
私が12歳で訓練兵になってから4年、私はこの人の元で訓練をしている。
「敵を倒すのはいいが、大丈夫か?人を殺すのなんて、何回やったって慣れるもんじゃねぇだろ。それに、今回は骨折れたらしいじゃねぇか。」
少佐はそう言うが、この人の挙げる戦果はいつも私よりずっと多い。
負担に感じているのなら、それは私より少佐の方だろう。
「お言葉ですが少佐、それは軍人であれば仕方の無いことであると考えます。」
「まぁそうかもしれねぇが⋯。マジで辛い時は、溜め込むんじゃねぇぞ?誰かに言わなきゃいずれ壊れちまう。」
まるで、壊れてしまった人を見たかのように少佐はそう言う。
いや、実際に見たことがあるのだろう。
軍人であるということはそういう事だ。
「そうだ、少し楽になる方法を教えてやる。」
「楽になる方法、ですか。」
「そうだ。まず、あの戦場を思い出すんだ。そんで、自分が殺った奴を思い返す。んで、そいつらに心から謝る。以上だ。」
「そう⋯ですか。」
私は、下らないと思った。
そんなもので楽になるのなら、そもそも悩んだりしない。
私は少佐程単純な人間じゃない。
馬鹿は楽でいいと、心底思った。
「ありがとうございます。もし思い詰めることがあればやってみようと思います。」
「おうよ、それじゃ、またな。腕、早く治ると良いな。」
「はい、御足労いただきありがとうございました。」
そうして少佐は手を振って出ていった。
私は思い返した。
鼻が曲がるような火薬と血の匂い。
鳴り響く野蛮な声と銃声。
絶えず命が爆ぜる音が響くあの戦場を。
私がこの手で殺めたあの人達を。
そして、心の底から、謝罪した。
するとどうだろう。
今までと比べて少し、軽くなった。
重荷を誰かに持ってもらえたような、そんな感覚だった。
私はそこで、自分も大概単純な人間なんだと思った。
そして、単純な人間でよかったと心底思った。
次から少佐を馬鹿にするのは辞めようと思った。
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