荒れ狂う獅子

私は今、戦場にいる。

この空気が、私は好きだ。

ピンと張り詰めた緊張感と、鳴り響く銃声、そして濃い血と火薬の匂い。


訓練兵でありながら、今回は3度目の実戦。

私は、深く大きく呼吸をして、銃弾飛び交う中へと飛び出した。


この程度の弾幕など、私には当たらない。

相手方の塹壕に滑り込み、敵の首にナイフを入れる。

いくつかの悲鳴と、血飛沫が上がる。


この近距離では、銃は使い物にならない。

塹壕の壁を駆け、次々と敵を屠るこの爽快感に私は酔いしれている。


刹那、ナイフを持たない左腕に激痛が走る。

怯まず駆けながらも、何が起きたかを考える。

先程、左腕は敵を掴んでいたはず。

しかし、そこに目を向けても敵はおらず、明後日の方向を向いた自分の左腕があるだけだった。

格闘術に覚えがある敵だったのだろうか。どうやら左腕は折られたらしい。

つまり最早使い物にはならないという訳だ。

上等だ。その程度のハンデはくれてやる。


そうして数時間が過ぎた後、残ったものは血に塗れて尚表情一つ変えない一人の少女と、死体の山だった。



実戦訓練が終わり、病室に運ばれて冷静になると、私は吐き出した。

手に残る人の肉を斬る感触。

腕の骨が折れる痛み。

何より耳に焼き付いた悲鳴が私を苛む。

戦場に行くたび謎の高揚感に襲われる自分が嫌になる。


自分でも分からない。

何故、人を殺めることに喜びを感じていたのか。

何故、戦場を駆ける事に楽しさを覚えていたのか。

何故、ひと時の間でも、あの忌々しい戦場が好きだと思うのか。


きっと、私の中にはもう1人いる。

タチが悪いのは、向こうはこっちを覚えてないのに、こっちは向こうを覚えていることだ。


私は人を傷つけたくない。

それでも、ひとたび戦場へ出れば私は私で無くなってしまう。

今まで何度軍人を辞めようと思ったことか。


だが、辞められない。

私を育ててくれた孤児院には、まだ恩を返し足りない。

だから私は戦場へ出続ける。

この心が壊れてしまおうとも。


そうして戦場へと出続け、その度に成果を上げ続けた私を、いつしか周りは「荒れ狂う獅子」と言うようになった。

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