奇跡のその後

奇跡から数週間後、リハビリをしつつ、徐々に訓練を再開していた。

あのような事故があったにも関わらず、私自身、銃に対する恐怖はあまり無かった。

ただ、以前よりも入念に点検を行うようになった。

そして退院後初めての射撃訓練で、違和感どころでは無い物に気がついた。

視界の先、狙いを定めた的に、的までの距離、風向きなどが表示された。

何かの間違いかと思い、一度照準から目を離し、再び的へ照準を合わせる。

すると、やはり先程と同じものが見える。

意味が分からない。

幻覚の類いか、今度中佐に一度聞いてみよう。



「中佐、少しお時間よろしいですか?」



訓練中、休憩の時間に手の空いていた中佐に声をかけた。



「おう、どうした。どっか体調でも悪いのか?」


「いえ、その、目が治ってから変なものが見えるようになったのですが⋯。」


「変なもの?どんな奴だ。幻覚とかなら1回診てもらった方がいいだろうが⋯。」


「はい、私も幻覚かと思ったんですが、銃の照準を覗いた時に、狙った対象に距離とか、風向きとか、色々見えるんです。訓練場で何度か試したんですけど、どうやら見えたものに間違いは無いみたいで⋯。」



中佐は何かに気づいたようだった。

似たものを知っている様子だった。



「そうか、お前もこっち側に来たってことか。まぁ、あんな奇跡が起きたんだ。何も無いって方がおかしいよな。」



何かに納得した様子で中佐は続けてこう言った。



「いいか、それは所謂「異能」だ。ごく一部の人間が生まれつき持ってたり、何かの拍子に手に入れたりするもんだ。お前の場合は、多分「狙撃に必要な情報が見える」とかなんだろう。俺も一応異能はあるが、正直易々と使えるもんじゃ無くてな。お前のは使いやすそうで良かったじゃねぇか。」



少し羨むような話し方で中佐はそう言っていた。

異能か。

初めて存在を聞いた時は「私には縁のない物」だと思っていた。

確か、前にアルマが異能を持っていると言っていたはずだ。



「ただそれは人智を超えた力だ。必ずしも自分に得になるとは限らねぇ。使うのはいいが、注意はしとけよ?」


「了解しました。無理の無い範囲で、軍に貢献出来るよう努力します。」


「おう!期待してるぞ!」



そう言って中佐は背中を叩いた。

その大きな手には、私に対する大きな期待が込められていたように感じた。


少し、痛かったが。

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