不慮の事故

私は病室にいた。



事の発端は、射撃訓練だった。

今日もいつも通り銃の点検を行い、いつも通り訓練が始まった。

訓練中、事故は起こった。

私の使っていた銃が突如暴発したのだ。

ボルトが目に刺さり、私は衝撃とその激痛で気を失ったらしい。

幸い、ボルト自体は綺麗に摘出することができ、命に別状はないそうだが、片目は完全に眼球が潰れており、また、もう片方もかなり損傷している為、全盲になるのは免れないとのこと。

点検中、特に違和感は感じなかったが、どうやら銃身に異物があったらしい。

そんな事にも気づけないなど、軍人として情けなかった。



これからどうやって生きていけばいいのか。

目の見えない私に居場所などあるのか。

軍人など続けられるのだろうか。

そんな事ばかりが頭をよぎった。

ショックで心が折れかけていた時、中佐が病室にいる私の元へ見舞いに来てくれた。



「命に別状は無いんだってな。良かったじゃねぇか。」



ベッドの横にあるであろう椅子に座る音が聞こえた。



「私の⋯、不注意でした⋯。点検の時にもっとちゃんと確認していれば⋯。」


「いいんだ、生きてりゃどうとでもなる。今は、お前が生きててよかった。心配したんだ。」



声が震えている。見えなくても分かる。私の為に涙を流してくれている。

私の不注意なのに。

私が悪かったのに。



「目、見えなくなるんだってな。どうする。軍に残るか?それとも辞めるか?一応、住む所ぐらいは用意してやれる。お前さえ良ければ⋯」



話の途中で中佐の無線に連絡が入る。

無線で分かりづらいが、あの声は恐らく准将のものだろう。



「悪い、仕事だ。また来る。ゆっくりでいい、将来のことしっかり考えて答え出してくれ。」



そう言い残し、中佐は病室を後にした。

私には、政府軍ここしかない。

辞めたところで、生活をしていく宛てもない。

中佐の「お前さえ良ければ」と言うのは、働き口のことだろうか。

そうであるなら、私は軍を辞めた方が良いのだろうか。

悩めば悩むほど、分からなくなっていく。



「こんな事なら死んだ方がマシだった。」



私は病室で一人、そう呟いた。



事故から1ヶ月後、包帯を取り替えて貰う時、奇跡が起こった。

徐々に治りつつあった傷は完全に癒えており、何より、目が見えるのだ。

そんなはずない、と思いつつも、1ヶ月ぶりに目に飛び込む眩い光が、目が見えることの何よりの証拠だった。

診てくれた医師は「奇跡だ」と言った。

同期達には「化け物だ」と言われた。

ただ何より、自分の居場所を失わなくて済んだことに、まだ軍に居られると言う事実に安堵した。



「目、治ったんだってな。」



見舞いに来てくれた中佐は言った。



「医師は奇跡だって言ってたぞ。やっぱ持ってる奴は持ってるもんなんだな。」



久しぶりに見た中佐の顔は、奇跡が起きた私よりもずっと嬉しそうだった。

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