第5話

エルシリアが寛いでいると、侍女が扉を開けて現れた。


「陛下がお食事を共にと申し上げております」


有無を言わせない物言いにエルシリアは黙って頷いた。

アンジェラの事はよく知らないが、病弱であまり姿を見せなかったアンジェラなら口答えもせずに頷くだろうとエルシリアは侍女に促されるまま部屋を後にした。


道すがらお互いに無言の時がすぎる。

話しかける気にもなれないほど、侍女はエルシリアの歩幅も気にしないで前を歩いていく。

慣れない靴を履いているエルシリアは疲れた足を動かすだけで精一杯急いでその後をついていった。


螺旋階段を降りて一階にある扉をいくつか通り過ぎてから、侍女はようやく足を止めた。


他の部屋よりも装飾の派手な扉の前にエルシリアが遅れて立つと、侍女は扉に向かって一言断りをいれた。


「アンジェラ様をお連れしました」

「通せ」


その声に合わせて物々しい扉が開かれた。

左右には兜を被った騎士がエルシリアが部屋に入るのを観察するように見ていた。

視線がわからない筈の兜からでもわかるほど、エルシリアがどんな皇女であるのか見極めようとする不躾な自然だった。


居心地の悪い思いを抱きながらエルシリアは食堂へと足を踏み入れた。


落ちた色合いにまとまった部屋は深緑のベルベットのおかげか清楚感のある空間にまとまっている。


「疲れている所呼び立ててすまない」


少しも悪いと思って居なさそうな口調のシアノスは、長いテーブルの1番奥でエルシリアを座って迎え入れた。


足は辛うじて組まれていないが、それでも魔王のようなイメージを抱かせるオーラを纏ってエルシリアに席に着くように促した。


「いいえ、ご一緒できて光栄ですわ、殿下」


エルシリアは見よう見まねのアルカイックスマイルでシアノスに答えてから執事に引かれた椅子に座った。


普段第二皇女の食事風景を見ていただけのエルシリアにはこの空間が何かの試験に思えて仕方ない。


エルシリアが座ると、水差しを持ったメイドがグラスにワインを注いで食事会が始まった。


ワインどころかアルコールを殆ど口にしないエルシリアは慣れない味に舌が痺れる気がした。


「ワインは苦手か?」


シアノスはエルシリアの様子を伺っていたらしく顔を顰めたエルシリアの様子に笑いをこぼした。


見られていたなんて…!


シアノスに笑われてエルシリアは誤魔化すようにもう一口ワインを口にした。

今度は舌の上を滑って鼻に抜ける熟成された葡萄の香りがしたが、やはり舌に残るえぐみがどうにも好きになれそうもない。


「貴方にはまだアルコールは早そうだ」


そう言ったシアノスは優雅な仕草でワインを口に含むとエルシリアのワインをノンアルコールのものに変えるようにメイドに指示をした。

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