第4話

身を清めたエルシリアが部屋に戻ると侍女は居なかった。

監視するようにエルシリアの行動を見ているだけの兵士がふたり、扉の前で佇んでいるだけだった。


これからどうすればいいか検討もつかないエルシリアはとりあえずソファーに座って髪を拭く事にした。


この髪が皇女と同じ色と言うだけで送り込まれる事になるとは思いもしなかったエルシリアは、国の命運すら賭けた欺き事が本当に上手くいくのか不安でしかなかった。


シアノスの瞳を誤魔化せるとは到底思えない気持ちだった。


彼が剣を振り上げたのはエルシリアに対する大使の態度が原因だった。


シアノスの妻となる女を身ひとつで送り届けたと確認したシアノスは、自国を馬鹿にされた事に憤り、許しを与える代わりに片腕を斬り捨てた。


イシュレイ王国を舐めてかかればどうなるかを見せしめる為とはいえ、シアノスの冷徹さは嫌でも感じさせられる事になった。


もしも、皇女でないと気づかれて仕舞えば、シアノスは今日以上の怒りでもってエルシリアを処分し、プラシィオ王国は火の海になるに違いない。


そんな確信めいた恐怖がエルシリアの行動ひとつで実現してしまう。


バレるわけにはいかない。


エルシリアはシアノスに従順で大人しくこの国に囚われる事を選んだ。


プラシィオ国には仲のいい両親と、幼い弟が貧しいながら仲良く暮らしているはずだ。


代わりの結婚が決まった時に、プラシィオの国王が遊んで暮らせるほどの金を送ってくれると約束してくれていた。


今となっては確認しようもない事だが、エルシリアは国王も娘を案じる気持ちが自分が家族に向けるものと同じである事を信じていた。


この国で、エルシリアはどんな目に遭うか見当もつかない。


協定の中にはエルシリアの今後についてプラシィオ国が口を挟むことは許されないと約束されていたからだ。


今まで不穏な空気が、部屋を重々しくしていて、エルシリアはすでに心が折れそうな気持ちになった。


シアノスの気持ちひとつでエルシリアはどう扱われるか決まってしまう。

先ほどのシアノスの言葉は、エルシリアを敵国の娘として扱う事を仄めかして、生きていれさえいれば良いと言いたげな言い回しだった。


決して多くは望まないと決めてきたエルシリアにとって想定した事とはいえ、実際に味わってみると気持ちの方は沈んでいく一方だった。

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