第3話
とても歓迎をしているとは思えない態度でシアノスはエルシリアを不躾に見下ろしている。
エルシリアは負けじとその瞳を見返した。
血に怯えた振りでもすればよかったと思った時にはシアノスは興味を失ったように目線を外して、血で濡れた刀を軽く払ったあと、煌びやかな衣装の袖で拭って鞘に戻した。
カチン、と金属が合わさった音が辺りに響いた。
凍りついた空気の中、エルシリアは自分を叱咤してカーテーシーでシアノスに答えてみせた。
「お心遣いありがとうございます」
黙ったまま傍観と化している側近や宰相はエルシリアをねぶみする目で見ていた。
つい最近まで敵としていた国からの形だけの妃をシアノスがどう扱うかを見極めようとする目だった。
エルシリアの対応を黙って見ていたシアノスはやがて口を開いた。
「今日からわが妃となるアンジェラ嬢を、頼んだぞ」
シアノスの一言で、空気が変わる。
彼が一瞥もなく入ってきた扉から帰っていくと、歓迎されていないことが言われなくともわかる雰囲気の中でエルシリアはひとり取り残されることになった。
数日後、プラシィオ国とイシュレイ国、ふたつの国の間で正式な和平条約が結ばれる事となった。
_______
エルシリアが案内されたのは簡素な一室だった。
思ったよりも広い部屋にエルシリアは驚いた。
白を基調とした、淡いエメラルドグリーンの差し色で統一された部屋は必要最低限の物が揃っていた。
決して豪華な調度品や装飾があるわけでもない室内をエルシリアは気に入った。
「湯浴みをしてもいいですか?」
先ほど斬られた大使の血がドレスに付着したのもあって、エルシリアは身を清めたくて仕方がなかった。
長旅の間、水で体を拭くだけしかできなかったお陰で髪は変にテカって指通りはいいとは言えないレベルの有様だった。
「どうぞ」
侍女は案内をする事なく一つの扉を差しただけだった。
妃として認めないと、侍女は態度で示していた。
着替えとタオルが用意されているとは思えない対応をされてもエルシリアは気にしなかった。
皇女であれば怒鳴り散らしていてもおかしくはないが、エルシリアは元々侍女だった。
簡素な着替えとタオルを持ち出して浴室へと向かった。
「歓迎をしていないと言われた方がましね」
浴室はお湯が張られている訳でもなく、シャワーから出る温水は嫌がらせのように少ない。
それでも備え付けられている石鹸やシャンプーなどは一通り揃えられていてエルシリアはゆっくりと身体を清める事が出来た。
味方はいない。
一人だけで耐える他国での暮らしが幕を開けた。
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