第6話

ワインの代わりにエルシリアに渡されたのはリンゴのスパークリングだった。

シャンパンに似た色のしたそれは嗅いでみてもあまりアルコールの匂いがしなくて、エルシリアは不思議に思いながらも

口にして見ることにした。

ゆっくりと傾けて一口口に含むとエルシリアは目を見開いてシアノスをみた。


甘味がありながらも微炭酸が口の中を爽やかに通り過ぎて、鼻からはリンゴの新鮮な香りが通り抜ける。


アミューズとして出されたワンスプーンにいちじくとブルーチーズが乗った物の後に飲むと、口内でよりアミューズが豊かな風味に変化する。

はちみつと、ディルの香りにリンゴの爽やかさがブルーチーズのコクとマッチしていてグラスが進む。


そんエルシリアにシアノスはグラスの中身を説明してくれた。


「この地域ではワインよりもよく飲まれるシードルという飲み物だ。特に甘味があり、アルコール度数も2%のものを用意させたから貴方でも飲めるだろう」


そう言ってシアノスも新たに用意されたグラスでシードルを一気に飲み干した。


新鮮なリンゴを搾汁して酵母で発酵させたシードルは、シアノスにとっては喉を潤すものでしかないのだろう。

エルシリアと同じものを飲んでみせただけで直ぐにまた新しいワインを口にしている。


「…美味しいです。ありがとうございます殿下」


そう口にしてまたエルシリアはグラスを傾けた。

甘味がありながら舌に残らない甘さといい、アルコールの香りもほとんどしないシードルをエルシリアはとても気に入っていた。


エルシリアはあっという間に用意されたアミューズの皿の上に残った2本のスプーンもグラスと交互に口にした。


アミューズは、一つずつ味が違っていて、2本目のスプーンの上にはいちじくと生ハムがのっていた。

アクセントに胡椒とオリーブオイルの香りがして先ほどの甘い物とまったく違う内容に驚いていた。

生ハムの燻された香りといちじくの独特の香りが合う事をエルシリアは初めて知った。


3番目のスプーンは、いちじくがワインで煮込まれていた。

噛めば噛むほどにスパイスの香りが次々と変化して単調にみえたワイン煮はことの他エルシリアは気に入った。


ワイン単体のアルコールの香りもえぐみも感じない甘いアミューズにもシードルは良く合った。


この国に来て初めての優しさを受けて嬉しかった事もあり、エルシリアは前菜が来る前にアミューズだけでワイングラス一杯を開けてしまった。



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