第2話 訪問_僕

形のあるものはいつか滅びてしまうから

形の無い願いを込めようと、

君が倒れた数年前、心に決めた。


目が覚める度に、

僕のことを忘れてしまう君が

いつか僕を思い出した時

哀しみに打ちのめされない様に

形あるプレゼントを送るのを辞めた。


今、僕が君にあげるのは

いつか枯れてしまう綺麗な花と

愛してるの言葉だけ。


朝起きたら、連絡をくれなくていい。

僕の悩みを聞いてくれなくていい。

僕の誕生日に、

プレゼントをくれなくていいし

結婚記念日に思い出を作らなくてもいい。


僕の身が滅んでも、

どうか泣かずに、

どうか僕のことを引きづらず、

新しい人と愛を育んで欲しい。


いつか、君が抱きしめてくれたこの身体も

君が好きと言った僕の心も

君自身も、

全て土に帰り、無になる。


だから、形のあるものは要らない。


電車に乗った時のように、

他人の様に横に座って、

僕だけが、君を覚えていればいい。


それだけで、僕は幸せなんだ。


今朝、花屋で見つけた綺麗な一輪の花を手に、

僕は君の病室を訪ねた。


「おはよう」

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