『花園』
ラスティはハートランドが自分の父親で、渦中のハートランドの武器を自分が持っている事も近いうちにバレてしまうのではないかと思った。
もし全てがバレってしまった場合、二人が自分の事をどのように思うのだろうかと考えると胸が締め付けられるような思いのラスティであった。
「さ、二人とも行くわよ。」
「お前たちこれから中層に潜るんだろう?
何処まで行くんだ?」
「正直何処まで行けるか分からないけれど深層の先、最下層を目指すわ。」
「最下層と来たか・・・
どんな理由があるかは知らんが、精々無理をしない事だな・・・」
グラスを空け席を立つリズに、髭の聖騎士は最後に1つ問いかける。
リズの返答を聞いた聖騎士は、何か思うところがあるのか目を閉じテーブルの上で手を組んだまま言うと三人を見送った。
詰所を後にした三人はダレスのガントレットの整備をする為、道具屋の一角に設置されているワークベンチを囲んでいた。
「ここを、こうして・・・
ここか。ここに火薬を詰めるっと・・・」
「ねぇ、リズ。あれは誰の仕業だったんだろうね・・・」
「ん?ああ。あの時の女の声?」
「それ、俺も気になってたんっすよ。」
ダレスがガントレットの整備をしている横でラスティが、ワークベンチを挟んで向かいにいるリズに言うと、心当たりがある様子のリズにダレスも手を止め話に入る。
「わたしの勘が間違ってなければ、ちょっと用心する必要がありそうね。」
「用心って・・・なんか危ない事でもあるの?」
「今のところ危険はないと思うけど・・・一応ね。備えあれば憂なしってやつよ。」
「心配するな。ねぇさんが言うんだから、問題ないだろ?」
言うリズの言葉に心配そうな表情をしたラスティをダレスが、余計な心配はするなとばかりに声をかけた。
リズは自分の勘に間違いが無い場合、つけられている可能性を考えていた。
なぜつける必要があるのかは分からないが何にせよこの先、リズは用心しながら進むのに越したことは無いと判断する。
「よしっ!完成だな。」
「オーケー。それじゃぁ、そろそろ出発しましょっ。
いつまでも、こんな所で足踏みしている訳にもいかないし。」
言うとダレスは、ガントレットを左手に装着するとフィーリングを確かめるように、二人に左腕を数回振ってみせた。
道具屋を出た三人は、早々に拠点を後にしようと守衛のいる出入り口へと向かう。
出入り口に立つ衛兵が見えてくると、そこにはカルキノス討伐の同志である若い聖騎士が立っていた。
若い聖騎士は三人が近づくのに気がつくと、軽く片手を挙げながら会釈をする。
「早いな。もう出発か?」
「ああ。いつまでもここにいる訳にもいかないからな・・・」
「必ず戻ってこいよ。」
「ああ。もちろん、そのつもりだよ。」
「無事戻ったら、酒でも奢ってやるから一緒に飲もうぜ。」
「絶対だぞ?」
「ちょっとぉ、縁起でもない。そういうのやめてくれない?
そう言うのって、フラグって言うのよ?」
「!?・・・違いねぇや。」
三人が目の前を通るその時に若い聖騎士が声を掛けると、ランタンを調節しながらダレスが応えた。
途中、聖騎士が死亡フラグを立てるような事を言った途端リズはソレに反応し、二人の会話を遮るように言い放つと、すぐに察した聖騎士が後頭部を押さえながら言う。
その後、しばらくラスティ以外の三人はお互いを見合いながら笑うのだった。
「さ、ここからが本番よ。みんな気を引き締めて行くわよ!」
拠点を出てすぐ最後尾を歩くリズが、前を歩く二人に活を入れた。
「ねぇさん。あの蟹みたいなモンスターがこの先ウロウロしてるんっすかねぇ・・・」
「どうかしら・・・
でも確実に言えることは、出会うモンスターはもれなく強敵って事だけね。」
「三人だけで、大丈夫なのかな・・・?
さっきの拠点で、誰か中層に行く人いなかったのかな・・・?」
ランタンの光で通路の先を照らし先頭を歩くダレスが暇に任せて話し出す。
それにリズが応えるのを聞いて、カルキノスの一件を思い出したラスティはリズに言う。
「人数がいるに越したことは無いけど、中層以降に足を踏み入れる探索者は多く無いから前もって約束して無い限り難しいわね・・・」
「そっか・・・」
「ラスティのお父さんだって、途中で誰かと合流する予定だったのかもしれないわよ?
あなたを連れて一人で最下層に行くなんて・・・・・・
・・・!?・・・」
「リズ?どうしたの?」
「ん?ねぇさん。なんかありました?」
リズがラスティに説明していると、何気なく話した自分の言葉に絶句するリズ。
ラスティは話の途中で、突然一点を見つめ黙るリズの姿を見て若干の恐怖を覚えた。ダレスも後ろの様子が気になったのか声をかけて来た。
リズは自分の中で自問自答をしていた。今までなぜ気が付かなかったのか、同行者がいても何らおかしくはない。と言うよりも、いる方が自然である事は明白だった。
同時にここまで何度も公安に姿を見られているラスティの事を考えると、捜索願いの類が出ていれば処かで止められていたはず。確かにリズは公安部隊に対してラスティの事を勘繰られないようにと、振る舞っては来たがどうにもその部分がリズには解せなかった。
「あぁ、ごめん大丈夫よ。
でも、同行者がいた可能性は高いわ・・・
ラスティ、お父さんは他に誰か一緒に行くとか言ってなかった?」
「言ってなかったと思う・・・」
「そう・・・」
疑問は残るものの、同行者のいた可能性が捨てきれないでいるリズはラスティに聞くも、本人が覚えていないのか本当に聞いていないのか定かではないが、ラスティからは何の手がかりも得られない。
ラスティは実際、同行者の事は聞いていなかったし自分でも聞いた覚えもなかった。
リズはいくら試行錯誤しても幾つものピースが全く組み上がらないパズルをしているような気分になり、若干苛立ちを感じた。物事にははっきり白黒をつけないと気が済まない、リズの性分が顕著に出ていた。
中層をしばらく進むと三人の目の前にあっけないほど何事もなく、十一階層へと降りる階段への入り口が姿を現した。
「あれっ?なんか楽勝だったっすねここ。」
「ダレスあんた不満なの?楽に越した事はないわよ。」
「そりゃそうっすけど・・・拍子抜けっていうか・・・」
「いいの、いいの。カルキノスみたいなのがしょっちゅう出て来られたら、それこそ堪ったもんじゃないわ・・・ねぇ?ラスティ。」
「そうだね・・・」
薄暗い下へと伸びる階段を照らし降りるダレスが言うと、さも当たり前と言った風に言い捨てラスティに共感を求めるリズだった。
事あるごとにラスティへ共感を求めるリズに、ラスティは内心困惑していた。
リズの言うことを肯定すると、いつもダレスの意見を否定するみたいでそれがラスティには、何となく嫌だった。
それはあたかも夫婦のいざこざの最中、母親が子供へ共感を求める場面での子供の心情のように。
降りてしばらくすると階段の終着点が三人の視界に入る。三人の感じ方には多少の違いはあるが、同じような思いで十一階層の冷たい石畳の床へと順番に降りて行く。
「この感じなんか嫌な感じっすよね・・・息が詰まるみたいなこの感じ・・・」
「同感。死の予感とでもいうのかしら・・・」
「二人も?僕もずっと思ってた・・・」
最初に降りた先頭のダレスが言うと、後の二人も口を揃えて言う。
幾度となく経験したダンジョンを下へと降りる行為だが、下の階に到達する時の緊張感は何度経験しても、心地の良いものではなかった。
三人は階段のある部屋を出ると、真っ直ぐ伸びた通路の先に大きくひらけた部屋が見える。
「こういう他に行き場のない通路ってなんか、不安っすよね・・・」
「そう?迷わなくてもいいからわたしは嫌いじゃないわよ?」
「けどトラップとかがあったら、避けるの難しいっすよ?
ってか、これ自体がトラップという可能性も・・・」
勘の良いダレスが何かを感じてかそう言うと、リズは平然と答える。
その一方でダレスの勘の良さは織り込み済みと言わんばかりに、辺りに注意を払い警戒をするリズ。
通路を進むと部屋の中の全容が見えて・・・こなかった。
見えないというより、部屋の中がこちらの通路より相当明るい事で部屋の中が白んでよく見えないといった感じだった。
「なに、これ?なんで部屋の中が見えないの?」
「あ、でも問題なく中には入れるようっすね・・・」
三人が部屋の前まで来ても部屋の中は見えなかった。近づいて分かったのが、部屋の中が白んで見えなかったのではなく、白く光る壁のような物でこちらと部屋の中が仕切られているようだった。
リズが目の前の光景に目を丸くしてダレスに向かって言うと、言いながら自分の腕を光の壁の中へと差し入れ上下に振ってみせるダレス。
ラスティも害がないと分かるとその横で、面白がるようにしてダレスの真似をしている。
「よっと!」
「ちょっ、なにしてるのダレス!!」
突然ダレスは掛け声と共に光の壁の中へと大きく踏み出し突っ込んで行った。
リズは反射的に言うと、さっきまでそこに居たはずのラスティの姿がないことにも気づく。
「うわぁ、なにこれ綺麗だよリズ!」
次の瞬間、光の中からラスティの声が聞こえてきた。
その声はすぐそばから聞こえてきてはいるが、やはり姿は見えない。
リズはもう少し考えてから決断したかったが、二人が既に中に入って無事だという事実を前にして仕方なく瞼を強く閉じ覚悟を決めて光の壁の中へと踏み出す。
通路と部屋の境界で何かを感じる事はなかった。恐る恐る、ゆっくりと瞼を開けるリズ。
眩しさでしばらく目が眩むだろうとリズは覚悟をしていたが、目を開けても全く眩しくはなかった。
リズは全てが狐につままれたような気分でいた。
すぐに中へ入ったリズの気配に気づいたダレスが口を開く。
「ねぇさんこれって・・・どうなってるんっすか・・・」
「な、なんなのよこれ・・・」
そこには、数えきれないほど沢山の花が部屋いっぱいに咲き乱れた花畑が広がっていた。
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