『問答』
ドサッ・・・
カルキノスの巨体を支えていた全ての足が力を失い、床と腹の下敷きになる。
そのままカルキノスは、ピクリとも動かなくなった。
「よっこらしょっと・・・」
ズウゥゥゥン・・・・・・
ダレスは掛け声と共に精気を失い半ばもたれかかったカルキノスを足蹴にすると、カルキノスは重い音と共に後頭部から床に倒れる。その様はまるで、大木を切り倒したようだった。
倒れたカルキノスの胸の部分ガントレットが押し付けられていた部分はそっくりとえぐり取られ、大きく開いた穴からは背中側の外骨格の内側が見えていた。
ダレスのガントレットから放たれた火薬由来の衝撃は、穴に仕込んだフラッシュバンの火薬を一瞬にして燃焼させた。その衝撃と熱で外骨格を突き破り、中の肉を焼却したのだった。
「まるで、焼きガニね・・・」
「最後は、あっけなかったな・・・」
リズがその光景を見て、安堵の混じりの冗談をポツリと呟くと若い聖騎士は、もう一人の聖騎士に肩を貸し担ぎ上げながら言う。
気を失っていた聖騎士は、どうにか意識を取り戻していた。
ダレス、ラスティは各々戦闘が終わり身支度を始めている。
リズはそれを見ながら、
「みんな、お疲れさんっ!
お楽しみはこれからよっ!」
その場を後にする即席討伐部隊。辺りには海産物を焼いたような、香ばしい香りが漂っていた。
リズたちが拠点へと戻ると、討伐を依頼した髭の聖騎士が一行を出迎えた。
「皆ご苦労だったな。ここで話すのもなんだな・・・
全員詰所まで来てくれないか?
酒ぐらい出すぞ。」
「そうね。お言葉に甘えさせてもらうわ。」
髭の聖騎士は、若い聖騎士が担がれているのを確認し詰所へ移動する事を提案すると、酒好きのリズは、二つ返事で即答した。
公安部隊の詰所に案内された三人は、奥のブリーフィングルームのような無機質な部屋へと通される。
先程気がついたばかりの聖騎士は大事を取り、ここへ来る途中で通路まで消毒液の匂いが漂う医務室と思われる部屋へと担がれていった。
部屋へ入った三人は、案内されるままに大きなテーブルを挟んで髭の聖騎士と向かい合う格好で席につく。
すぐに一人の女性聖騎士が、ワインと思われる赤い液体が並々と注がれたグラスを全員の前に置いて回る。
「はい。君は、ぶどうジュースね。」
「あ、ありがとう・・・ございます・・・」
その女性聖騎士がラスティの前にグラスを差し出しながら言うと、ラスティは少し照れたそぶりを見せると使い慣れない敬語で礼を言った。
「まずは礼を言う。今回は助かった。
拠点近くで中層のモンスターが徘徊する事は少なくないが、今回のようにあれだけ大きい個体が来るとは思っておらず正直驚いている。
それはそうと、お前たち。この後中層を潜ると言っていたな?」
「そうね、それは否定しないわ。
でも世間話の前に・・・ちょっと・・・」
「おぉ!これは失礼した。」
髭の聖騎士が礼に続いて身の上話を三人に振るとリズは、右の人差し指と親指をする合わせるようにして報酬を催促する。
リズは報酬もそうだがラスティの事があるので公安にはじめにあれこれ聞かれるのを嫌い、まずはこちらから質問したいと考えていた。
リズの催促に、髭の聖騎士は腰に付けた布の袋をテーブルの上へ置き中を探り始める。
「あの個体はそちらも予想してなかったのよね?あんなデカイって分かってたら正直今回の件、受けなかったわよ?」
「まぁ、そうだな・・・倍でどうだ・・・?」
「よろこんでっ。」
すかさずリズは今回の巨大蟹男を理由に報酬を釣り上げる方向へ誘導すると、致し方ないと行った表情で倍額を提示する。
リズは髭の聖騎士から待ってましたとばかりに金貨10枚を受け取ると、掌で数え直しながら口を開く。
「それで、約束通りお話を聞きたいんだけど?」
「分かっている。我々が話せる範囲であればなんでも答えよう。」
ここで初めて、髭の聖騎士がグラスのワインをひとくち口に運んだ。
それを受けて三人は、それぞれグラスを傾けはじめた。
軽く喉を濡らしたリズは、髭の聖騎士を正面に見据え淡々と話し始める。
「まずは、ハートランド。英雄様の件なんだけど。」
「その件か・・・正直な所、我々としても分からん事が多くてな・・・
で、何が聞きたい?」
「英雄様は武器を持ってなかったそうじゃない?関所を通る時、不審に思わないって考えられる?」
「それか・・・これから話すのは公安の定めたルールに準じて話すが・・・
通常であれば何の装備もなしに運び屋などの同行者がいない場合は、通行の許可は出さない。
たとえ低層であろうが基本的に例外はない。」
「基本的に?例外があるとすれば?何が考えられるの?」
「もちろん献花の件は知っているだろうが、あの時に献花のみで先に行かない者に対して武器の所持は要件としていなかった。
例外といって考えられるのはそんな所か。」
献花台が設置されてからは、関所で献花かどうかを聞かれた事をリズは思い出していた。
リズは自分の仮説についてもこの際、意見を聞いてみたいと思い言葉を選びながら話し始める。
「これから話す事は完全に私の推測なんだけど・・・ハートランドが持っていた武器は、ダンジョン内で何者かに持ち去られたとしたら・・・どう?」
「現場の処理の前に、そこを保存した物の報告では第三者の痕跡はなかったという事だったが・・・
しかし、現場は発見当時ミノタウロスの物と思われる血で辺りが汚されていたというし、ダンジョンの石畳では足跡の痕跡を調べたる事も出来んから、何とも言えんな・・・・・・
だが、お前の話すその推測の可能性の方が武器を持たずしてダンジョンへ入るよりは、遥かに高いと感じるのは確かだな。
しかし、そうなると一体誰が・・・」
「それが分かれば苦労しないわよ。」
リズは真面目に考えた末の意見を口にした髭の聖騎士に悪態を平気でつくと、頭の中で整理していたもう1つの謎が明らかとなる可能性に期待して話を続けた。
「それと、ハートランドが関所を通った時の守衛が特定されていないのは、本当なの?」
「ああ、特定されてはいないが、あれから数人の聖騎士の行方が分かっていなくてな。おそらくその中に、当時守衛を担当した人間がいると思うんだが。」
「その数名って、誰か教えてくれる?」
「そりゃ、無理だ。その数名も現在捜索中でな、事件性があるかも知れんから話せんよ。」
「そうよね・・・」
「他に何か、聞きたい事はあるか?」
「無いわ。ありがとう・・・・・・」
リズは髭の聖騎士の話から、自分の知り得ない情報である行方不明の聖騎士の情報を得る事が出来たことで、報酬のとしての成果は達成されたとそれなりに満足していた。
1つ惜しいところがあるとすれば、行方不明の聖騎士の特定が出来なかった事だけだった。
しかし依然としてハートランドの武器の謎については、不確定要素があり解明には至らず終わる。
リズは話終えると、グラスに残ったワインを一気に飲み干す。
それを見て間も無くリズが動き出すと察しゆっくり残りを飲み干すダレスに比べ、特に喉の乾きが酷かったラスティはグラスを一気に傾けた。
リズと髭の聖騎士が話しをする中ラスティの心臓は終始、自分でも聞こえるほどに心拍数が上がっていたのだった。
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