『他薦』
三人は十階層への階段を降りてすぐ、大きな空間に構える探索者のための拠点へと足を踏み入れる。
入り口には衛兵が一人立っているだけで、三階層の拠点の様な大きな規模ではなかった。
もちろん関所は無く、衛兵がモンスターに目を光らせているのみの簡易的な駐屯地の様だった。
「さてと。止血剤も切らしたままだし私は買い出しっと・・・
ラスティザック貸して。」
拠点へ入るなりリズはこれから一仕事があるという面持ちで、ザックから形見の剣を外し背負うラスティからザックを受け取る。
「ねぇさん。俺たちはどうしたら・・・」
「そのくらい自分で考えなさいよ。ここはそう広くないからどこへ行っても見つけられるから・・・
ラスティと一緒に腹ごしらえでもしておけば?それなら私も終わったら、合流するけど。」
「じゃ、俺たちは飯でも行くか?」
「うん・・・」
優柔不断なダレスのセリフにリズはやれやれと言った感じで、ザックの中身を整理しながら言った。
ダレスは後頭部を軽く掻きながら、ラスティに同意を求める。
ここは駐屯地の様な拠点だが、衣食住は最低限確保されていた。
1つ気がかりがあるとすれば、拠点の面積に比べて人口密度が少々高いという事ぐらいだった。
「うわぁ、結構人でいっぱいなんだねここ・・・」
「そうだな。ここは低層との境目だからって事もあるんじゃないか?。」
「そうなの?」
「そりゃそうだろ?ここと三階層の拠点を移動する連中は結構いるけどよ、俺たちみたいにこっから先へ進む奴はこの中の1割もいないんだぜ?
だから低層の拠点には人が集まるって訳だ。ここは簡易的な拠点だし、余計にそう感じるんだろうよ。
恐らく中層と深層の間の拠点は、ここよりかは閑散としてるはずだぞ?」
「なるほどね・・・」
拠点の中を食事処へと進みながら、その人の多さに自然と言葉にするラスティにダレスが、得意そうに話した。
ラスティは自分の知らない事を話すダレスを見ながら、子供ながらに早く二人と同じ様に色々経験したいと思うのだった。
間も無く二人は食事の取れる店へと到着するが、その店構えは店というよりは屋台といった感じの店だった。
「いた、いた・・・私にもこの子と同じものをちょうだい!」
ダレスとラスティの二人は思い思いに注文したものを口に運んでいると、程なくしてリズが二人の座るテーブルへと駆け寄る。
席につくなり、リズは手を挙げて食事するラスティの手元を見ながら注文を叫んだ。
「ねぇねぇ。二人とも何話してたの?」
「あぁ。ラスティにちょっくらダンジョンの事を教えてたんっすよ。」
「あら、よかったわね、ラスティ。で、ダレスの講義は理解できたかしら?」
「ま、まぁまぁかな・・・」
リズは二人の顔を交互に見比べながら、興味深そうに二人に言った。
それを受けたダレスが調子付いた顔をして得意げに話すと、リズがダレスを見たままラスティに聞く。
ラスティは、空気を読んだのかよそ見をしてそれに答えた。
「ダレスの言ってる事がわかれば、大したもんよっ。わたしはダレスの言ってる事なんて1割も理解出来ないし・・・」
「ちょっ・・・ねぇさん、バカにしないでくださいよぉ・・・」
「バカになんかしてないでしょ?わたしは真実を言ったまでよ?
そんな事よりも、二人が仲良しならそれでいいじゃない?」
話しの最中注文した食事が運ばれて来ると、リズは食べながらダレスに悪態をつくリズ。
ダレスはいつもの様にリズからバカにされた事を『自分は傷ついているんですよ』と言わんばかりの口調で合いの手を入れていた。
「おいっ!ここに腕の自信のある探索者はいないかっ!!」
三人が食事の団欒を楽しんでいると突然、威勢の良い声が上がる。公安部隊の聖騎士だった。
途端にその聖騎士へと一帯にいる全員の視線が集まったかと思うと、次第に辺り一帯にざわめきが広がっていく。
人々のざわめきを振り払う様に聖騎士は続ける。
「聞いてくれっ!この拠点の近くにカルキノスが確認された!
こちらの方に向かってきているようなので、討伐を依頼したい!!」
その名を聞いて辺りは騒然とする。
カルキノス ───
エビのような姿をした、主に中層を住処としている事が多いモンスターである。
しかし、通常のエビとは違い陸上を移動し、その全身は硬い鎧のような外殻で覆われ、大きく発達した2つのハサミを持ったモンスターだった。
「ねぇさん。なんかやばいんですかね?」
「う〜ん。どうかしらね。話では聞いた事ある個体だけど、わたしもこの目で見た事ないからなんともだけど・・・
しばらく、様子見ね。誰かが立候補するかもしれないでしょ?」
「それも、そうっすね・・・」
騒がしくする周りの雰囲気に呑まれたダレスが言う。そんなダレスをよそに、高みの見物を決め込もうと考えているリズは呑気な口調で言う。
「誰かいないかっ!?
我々公安も加勢する!」
先程から威勢の良い聖騎士の声だけが虚しくあたりに響いていた。一帯には、中層以降の経験者がいないと思われた。
「は〜い!ここにこれから中層へ進もうとしている、探索者がいるわよ〜!」
リズたちがしばらく志願者が現れないと思っていた矢先リズたちの背後で女性の声がそう告げた。
「おっ。誰かいるみたいっすよ。」
「感心な人も居るもんね。普通、他薦なんてしたりする?
下手したら、殺されるわよ・・・?」
ダレス、リズの二人は完全に他人事のように言葉を交わしながら食事を摂っている。
「ん!?・・・今の声。まさかっ!」
リズは突然脳裏をかすめた事実を確かめようと、先程の女性が声を上げた方を振り向く。
リズが振り向いたその方向には、先程声を上げたと思われる輩は見て取れなかった。
しかし、リズは確かにその声に聞き覚えがあり、その姿も頭に浮かんでいた。
「ね、ねぇ。リズ、ダレス・・・?」
そんな中、ラスティが二人に声を掛けてきた。
リズ、ダレスは席を立っているラスティの方に向き直ると、二人は自分たちの座るテーブルへと注がれる恐ろしい程の視線を感じるのだった。
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