『悪戯』
リズとミリは予定を切り上げ、予定よりもだいぶ早く孤児院へと戻った。
その晩、リズは高熱を出し寝込んでしまう。
リズが今朝感じていた、体調不振は見事に当たっていた。
「ねぇ、リズ大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫。すぐに良くなるわ。」
「ほんとに?」
「ほんとよ。だからミリは何も心配しなくていいのよ。」
今にも泣きそうな顔で聞くミリに世話役の女性は、しゃがみ込み目線を合わせて優しく答える。
夕食後リズがいつもの大部屋ではなく、一人部屋で世話役の女性に看病をしてもらっている事を聞いたミリがリズの身を案じて何度も世話役に詰め寄っていた。
夜の帳が降り、しばらくして。
コン、コン、コン・・・
「あ、はい・・・どうぞ。」
世話役の女性が時折起きてリズを看病していると、部屋の扉を静かに叩く音が聞こえてきた。
リズの汗をタオルで拭う手を止めて、世話役の女性は部屋を訪れた者に入室を促す。
ふと置き時計に目をやる女性、時刻は深夜0時を過ぎていた。
「リズの容体はどう?」
「今は熱も下がって、落ち着いているようです。」
「そう。よかったわ。ちょっといいかしら・・・」
部屋を訪れたのはシスター・ナザレだった。
シスターは3分の1程開いた扉の隙間から顔を出し小声でリズの安否を確認すると、手招きしながら言う。
隙間から見えるシスターは昼間身につけている肩から布が下がったスカプラリオではなく、真っ白な寝巻きを纏い胸にロザリオを着けていた。
世話役は時刻とその格好から急ぎの用事だと判断し、急足でシスターに駆け寄る。
「何かありましたか?シスター・・・」
「いえ。そう急ぐ事ではないと思ったんだけど、あなたの耳にも入れておこうと思って。」
「そういう事でしたら、こんな夜遅くではなく明日の朝でもよろしいのに・・・
早くお部屋へお戻りになって休んで下さい。」
「いいの。皆にはもう話したから、そのついでなのよ・・・」
「そうですか。それでは・・・」
世話役の女性が言うと、二人はリズを気遣うように扉を閉め廊下へ出る。
「ついさっき見回りをしていた者から報告があったんだけど、どうやら敷地内にオオカミの群れが出たらしいの・・・」
「オオカミですか!?」
「そう。敷地内の森は外と繋がっている所も少なくないから、1、2匹はそう珍しい事でもないんだけど。今回は4匹確認しているらしいの。」
「駆除は出来なかったんですか?」
「それが、その前に逃げてしまったらしいのよ。
それで話と言うのが、念の為に明日は森へ近づかないよう子供たちに注意していて欲しいの。」
「それがよさそうですね・・・、わかりました。」
「頼んだわね。看病してるの所、遅くにごめんなさい。」
「いえ、わたしは構いませんので。
シスターこそ早くお部屋へ・・・」
「ありがとう。それでは、おやすみなさい。」
静かにそう言いながら軽く頭を下げるシスターに一礼をし、彼女が部屋へ戻るのを確認する世話役の女性。
「何もなければ、いいんだけど・・・」
世話役の女性は、部屋へ戻るなりポツリと呟いた。
ちょうどその時、ミリはなかなか寝付けないでいた。
原因は昼間森の中で見つけた、光を放つ『何か』だった。
あのあとずっと気になってミリの頭から離れない。
「アレ、やっぱりリズの言ってた宝物かな?
ん〜。どうしよ・・・
明日行ってみようかな・・・
リズ明日、元気になるかな?」
ベッドの布団の中でモゾモゾといつまでも、昼間見つけたアレの事を考えるミリ。
そのうち頭の中で何かを閃めく。
「リズが治らなくても、アレ持って行ってあげれば元気になるよね。きっと。
ふふっ、いい事考えちゃった。
リズ喜んで、ベッドから落ちちゃうかも・・・
早く、明日にならないかな〜」
布団を被ったその中で一人クスクスと笑いながら、独り言を楽しんでいるうちにミリは眠りに落ちた。
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