『爆殺』

「来るよっ」



 その声を聞いてラスティは体が強張るのを感じていた。

 ダレスとリズは、それぞれ戦闘体制を取って様子をうかがっている。


 カタカタカタ・・・

 

 ザワザワという音がさらに近づくと、それと共に地響きのような細かい振動が足の裏から伝ってくる。

 ダレスの足元に置かれたランタンの中で、光源が伝わる振動でゆらゆらと揺れていた。

 直後、通路の闇の中からこちらへ小走りしてくる数匹のゴブリンの姿が確認できた。



「ダレス、突っ込まないで!」



 リズが言ってダレスに前もって制止をかけた。

 闇から抜け出し、こちらへ走ってくるゴブリンの姿が光源によりあらわになる。

 

 その数4匹 ───

 

 後方にいるリズはゴブリンが射程に入ると両手を背後に回して腰に刺した小型のナイフを素早く2本抜き取り、その勢いのまま両腕を大きく真上に振り上げゴブリン目掛けて投げつけた。

 勢いよく投げられた2本のナイフは、ダレスの横をかすめるように一条の光となり2匹のゴブリンの眉間を同時に射抜く。

 眉間にナイフが刺さった2匹のゴブリンが走る勢いのまま、前のめりに倒れ込むその間をダレスが駆け抜け、残りのゴブリンに向かって一気に間合いを詰める。

 ダレスは2匹のうち向かって左のゴブリンの頭部に強烈な右フックをお見舞いすると、左の壁とダレスの拳で挟まれた頭蓋骨から破裂音がした。

 次の瞬間、振り抜いた右の拳を左の掌で覆うとその手で右腕を強制的に右に押し込む様にして、右側のゴブリンに肘鉄を食らわす。

 右のゴブリンの首が曲がらない角度で固定されたまま、床に倒れ込むと同時に、左の壁にへばりついていたそれもずるりと床に落ちた。

 

 一瞬だった。

 ラスティは二人の動きに、圧倒され身動き1つ出来ないでいた。



「まだよっ!」


「チッ・・・」


 

 言うとリズとダレスは、更に大きくなり近づくザワザワとした喧騒を聞いてその規模を察した。

 軽く見積もっても、10単位の数に間違いなかった。

 そうこうしているうちに、奥から続々とゴブリンやら、血を這う蜘蛛みたいな虫やらがこちらへ向かってくるのが目に入った。



「ラスティ、下がってて!!」



 強い言葉で言うとリズはラスティ押し退け、背後へと追いやる様にしてかばう。



「あぁ、もうどうにでもなれっ!!」



 ダレスとリズは前に出て、戦闘を再開した。

 ダレスは、主にゴブリンの様な人型のモンスターの相手をする一方で、リズは地を這う虫の様な方をナイフ片手に次々と処理していく。

 そのそばから、次々と奥からモンスターが湧いて出てくる様に迫ってきていた。



「さすがに、これじゃキリがないわね!!」


「俺も同感っす!!こっちがやられるのも時間の問題っすよ!」



 低階層というのもあり、個々のモンスターは問題にはならないが、流石の二人でも次々に湧いて出てくる様なペースでは、身が持たない様だった。



「ダレス!!あれやるわよ!」


「あぁ、はい!!

 ・・・でも、ここ一本道じゃ・・・

 逃げ場なんてありましたっけ!?」


「アレがあったじゃない!!アレよ、アレ!」


「えっ、それって・・・

 ま、マジで言ってんっすか!?」



 大混戦の最中、リズはダレスに何かの合図をすると、一度は了承するが一転異議を唱えるダレス。

 そのやりとりを見守る事しか出来ないでいるラスティは、何の事だか全くわからずオロオロとしていた。



「ダレス!合図で行くわ!!ラスティをしっかり頼んだわよ!!」


「あぁ、もうどうなっても知らんっすよ!」


「3・2・1・・・GO!!!」



 リズのカウントダウンの合図と同時に、今まで戦闘をしていたダレスは突然踵を返し、ラスティの方へ一目散にダッシュする。

 ラスティは向かってくるダレスに恐怖を覚えた。

 次の瞬間ラスティの脇を駆け抜けながらダレスはその腕を力一杯掴むとそのまま更に猛ダッシュする。



「これでも、喰らいなさいっ!!」


 

 ダレスがラスティを掴むのを確認したリズがモンスターを牽制しながら、腰のポーチから袋を1つ取り出し壁に投げつけると同時にダレス達の後を追った。

 

 投げたのは止血剤だった、それも粉末状の。

 叩きつけられた袋の止め具が弾け、中身の粉は瞬く間に辺りを白く煙幕のように覆い広がっていく。

 更に後を追うモンスターの群れが、次々に止血剤の入った袋を踏みつけ白い煙幕は拡大していた。



「ラスティ!!何があっても俺を信じろ!いいかっ?絶対だぞっ!!」

 

「は、はい!!」



 ダレスが走りながらそう言うとラスティはこれから何が起こるのか予想も出来なかったが、取り敢えず大声で返答する。

 ふと後ろに視線をやるラスティの視界に、追ってくるリズのすぐ後ろまで舞広がる煙幕が迫っているのが見えた。

 もう、ラスティには正直、何が何だか分からなかった。



「あったぞ!」


 

 しばらく、もと来た道を戻ると、息が切れ心臓が爆発しそうになるラスティの横でダレスが何かを見つけ声を上げた。

 ラスティも釣られてダレスの視線を追う。


 その視線の先に見えるのは、先ほど自分が落ち掛けた落とし穴であった。



「いくぞっ、覚悟決めろよ!ラスティ!!」



 ダレスは自分自信に活を入れる様に叫ぶと、ラスティの手を掴んだまま落とし穴にダイブする。

 二人は落下しながら、ゆっくりと時間が進むような感覚を感じていた。

 眼下にはどこまでも続く、深い暗闇が広がっている。


 次の瞬間、体に衝撃が走ると同時に急ブレーキがかかったかのように二人の落下が止まった。

 ラスティは掴まれた腕を強く引っ張られる感覚を感じてそちらへ目をやると、落とし穴のへりに手をかけて宙吊り状態になっているダレスが目に入ってきた。

 数秒後こちらに近づいて走る足音が、床の下の空間に響き渡る。

 リズは行先に落とし穴が見えると、ポーチからマッチ箱を1つ取り出す。


 

「よっと・・・」


 

 1本マッチをすると、それを正面を向いたまま背後に投げると同時に落とし穴へと飛び込む。


 ズドゴオォォォ・・・・・・ン!!!!!

 

 リズが穴の中に消え、へりに手をかけると同時に、爆発音と轟音が響き、頭上で爆炎が巻き起こる。

 

 粉塵爆発 ───

 リズは奥の手であるこれを狙っていたのだった。

 今回は爆風が下から上へと向かう事を考慮した結果、落とし穴を避難場所として選択した事が勝因となった。

 穴の中で三人は轟音に紛れて微かに聞こえてくるモンスター達の、断末魔の声を静かに聞いていた。


 しばらくして穴の外が落ち着いた頃、ダレスは支える腕に限界がきていたようで、先に穴の外へ上がったリズの手を借りて、ようやくラスティと共に穴の外へと這い上がる。



「なんとか、上手くいったわね・・・」


「ねぇさん、無茶するんだもんなぁ・・・」


「全員助かったんだから、問題ないでしょ?

 ラスティ、大丈夫?しっかりしなさいよ。」

 

 

 平然と会話をする二人を見て、ラスティはしばらく放心状態が続いた。

 辺りを見渡すと、壁や床は見える限り黒いすすがこびり付き通路のところどころには、焼け焦げたモンスターがプスプスと音を立てて転がっている。

 広がる光景と辺りを漂う不快な肉の焦げたような匂いが鼻をつく惨状を目にしてラスティは追い討ちを喰らった様子でいた。

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