3、カバンの中のチョコレート
『彼女』が、『俺』を好きだと??
夢ではないかと思うような、信じがたい告白も自宅へ帰りチョコに添えられていたカードが現実だと告げていた。
『日高先輩へ
入社したときから、ずっと好でした。
いつも、迷惑ばかりかけてごめんなさい。』
彼女が入社したときから優しい言葉の一つもかけたことがないというのに、俺が好きだなんてどうかしている。
こんなこと、ありえない。
想定外の出来事に、頭を抱えると彼女の笑顔が思い出された。
どんなに失敗しても叱り付けても、翌日には笑顔で出社してくる。
お人好しだが、思いやりがある。
太陽みたいに眩しい
――― はっきりいうと、俺がもっとも苦手とするタイプだ。
俺は『お人好し』とか『思いやりがある』なんていう人種は、大嫌いだ。
俺の両親がそうだったから。
父は友人の借金の保証人になり、大きな借金を抱え込み、その無理な返済がたたり病に倒れた。
母は、そんな父に文句も言わずパートまでして手助けした。
俺は、働き詰めの両親が心配だったが、両親は俺がさびしい思いをしているのではないかと心を痛めていた。
父は俺が高校のときに病気で死んだが、その保険金で、借金は返済し俺は大学まで出ることができた。
だがそれでも、バイトしながらやっとだった。
俺は、両親のようにはならない。
そう心に決めていた。
他人に振り回されず、わが道を行く。
人に冷たいといわれても構わない。
多少、傲慢に見えても仕事が出来れば文句は言われない。
それが、俺のやりかただった。
彼女と俺は、正反対だ。
だから、これ以上近づいてほしくない。
俺のペースを乱されたくないからだ。
なのに、俺は彼女から貰ったチョコを食べることも捨てることも出来ず、ホワイトデー当日までカバンの中に仕舞い込んでいた。
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