第38話 魔王討伐パーティーが護衛する


「ランだ! よろしくな!」

「ハーンだ……よろしく」

「俺は、ビルだ。俺の国までよろしく頼む!」


 今、ハーゲンとラーン、ビルが挨拶をしているのは、護衛依頼を受けたハーゲン達に依頼主のドワーフのビルが声をかけたから。


 本来、依頼主と依頼を受けた冒険者達は、出発前日に顔合わせする。


 だが、ビルは依頼を出した後、ギルドの酒場で酒を飲んでいる間にハーゲンとラーンが依頼を受けた事に気づいたため、出発前日の手間をはぶこうとしたのであった。






(さて、依頼も出し終ったし一杯だけひっかけて、買い物にいくか……うん? あれは、たしか俺の依頼だったはず……あいつら、すぐに依頼に飛びついたな。丁度いい明日、あいつらと時間を合わせて会うよりも、今話してしまえば、時間の節約になるな)


 そう思ったビルは、今しがた運ばれてきた酒を一気に飲み干すと、代金を置き席をたつ。


「なぁ、あんたら。俺の依頼をうけてくれたのか?」

「ん? 護衛の依頼者のビルさんか?」


 ビルに返事をしたのは、ダークエルフの姿をしたラーン。


「ああ、そうだ。本来なら、出発予定の前日の明日に顔合わせをするんだが、あんたらの姿が目に入って、声をかけたんだ」

「ランだ! よろしくな!」

「ハーンだ……よろしく」

「俺は、ビルだ。俺の国までよろしく頼む!」


 そこまで言ったビルは、珍しそうにハーゲンとラーンを見る。


「ん? なんだダークエルフが珍しいか?」

「ああ、悪い。ダークエルフが珍しいと言うより、エルフとダークエルフがパーティーを組んでいるのが珍しくてな……」

「ああ、たしかに。あまり俺達の様なパーティーは見かけないな、それに今はいないが獣人とドワーフもいる」


 ラーンがそう言うとビルはさらに驚き、目を皿のようにした後、珍し気に二人をジロジロと見る。

 そんなビルにラーンが言う。


「ビルさん、俺は良いんだが、ハーンをあまり見てやらないでくれないか?」


「悪い悪い。確かに女性をジロジロ見るのは失礼だな。すまない。それで声をかけた理由なんだが……明日お互いに連絡を取って時間を合わせて顔合わせをするより、今お互いが目の前にいるんだ。今の間に済ませてしまおうかと思ってな」

「それは、いい考えだ。今日すませてしまいえば、明日を自由に使える。だがさっきも言ったが残りの二人は当日でいいか?」

「ああ問題ない」

「なら、ハーン頼んでも良いか?」


 ラーンに言われハーゲンがビルの前に立ち、頭を下げ話しはじめる。


「あらためましてハーンと言います。ご依頼にかんしてのお話は、私がさせていただきます」

「ああ、よろしく頼む」


 二人は、そう言うと護衛依頼に関して話をはじめる。




「……とまぁ、特に普通の護衛依頼とあまり変わらない。後は、あんたら以外にも二人の冒険者がいるんだが、それは出発当日の朝にでも話してもらえれば問題ない」

「……わかりました」


 この時、利害の一致からハーゲンは、ビルに何も言わなかったが、本来同じ依頼を受ける冒険者達も、その前日に顔を合わせる。


 それは護衛の間、連携を取り合うための取り決めをするため。だが、ビルはセーラとジェノさえいれば護衛の必要が無いことはわかっており、なおかつ二人はあまり他の人間と接触したくないために、当日の朝に顔を合わせるように言った。


 ハーゲンも依頼をはじめる前に姿を変えているとは言え、セーラ達に不用意に会えば、ばれるかもしれないと思い、ビルの言葉に何も言わず、黙って受け入れた。


「では、明後日の朝、町の門が開くと同時に出発だ。よろしく頼む」

「了解した。当時はよろしく頼む」


 ビルとハーゲンは話がおわると握手をして別れた。



 

 二日後の朝、ハーゲン達が門の前に向かうとビルとセーラ達が待っていた。


「すまない遅れただろうか?」

「いや、まだ門が開くまで時間があるから、問題ない。この間言った二人の冒険者達が彼らだ」


 ハーゲンがビルに挨拶をすると、セーラとジェノの二人が近寄って来る。


「はじめまして。私はゼラといいます。こちらが……」

「ジェノだよろしく頼む」

「ああ、私はハーンそれに」

「シュウと言います。よろしく」

「ランだ!」

「サイといいます。よろしくお願いします」




 お互い自己紹介して、全員が握手をおえた所で町の門が開く。


「とりあえず、出発だ。今日の目標地点に向かう。町を出てしばらくすると、魔物と出会う可能性も出てくる。その時は護衛をよろしくな」


 ビルの声に全員が返事をして、門に向かって歩きはじめる。


 門を出た所で、先頭をセーラとジェノが歩き、その後ろにビルが御者をする馬車。その馬車の左右と後ろをシュウダ達が囲む様につづく歩いて行く。




「ジェノさん。このまま何もなければ良いですね」

「ああ、だがそうも言ってられないようだ。この感じだと数分後に魔物が向って来るだろう」


 町をでてしばらくの間、何事もなかった事にセーラがジェノに話しかけると、ジェノが魔物の気配に気づく。


「ゼラ、いちおう後ろの冒険者達に魔物が来ることを教えてやってくれ。あと魔物が来るが我々だけで対処可能だとも」

「はい! わかりました!」


 ジェノの言葉に返事をしたセーラは馬車の方に歩いて行き、ビルに魔物が向かってきていることを伝える。


 ビルには自分達だけ対処が可能だとも話し、続けてシュウダの元に向かう。


 だが、セーラが向って来ることに気づいたシュウダが、小走りで近寄って来て小声で話す。


「ゼラさん、魔物が向って来るそうなので気をつけてください」

「⁉ ……気づいていたんですね。私もその事を教えに来たのですが、気づいていたなら問題ないですね」

「はい、馬車の左右と後ろは我々に任せてください」

「よろしくお願いします」


 シュウダにそう言うとセーラは、馬車の前方に向かう。


「ジェノさん、彼等も気づいていいたみたいです」

「本当か?」


 そう返事をしたジェノの表情は、少しこわばっていた。


「はい……あの、何か問題が?」

「いや何でもない。ゼラも気を抜くなよ」

「はい!」


(彼等のランクはそれほど高くなかったはず……この距離で気づいたのは偶然……でしょうか? いや、今は考えるべきではないですね魔物に集中しましょう……)


 ジェノはそう自分に言い聞かせると、背に背負ったの弓を手に持ち、矢筒から矢を抜く。

 そして矢をつがえるといつでも矢を射れるようにして歩きはじめた。

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