第34話 勇者は、盗み聞きする
「すいません! すぐに片づけます!」
ドワーフとセーラとジェノが相席になり、しばらくすると店員がドワーフの飲み終わった酒瓶を回収しにやってくる。
セーラとジェノはドワーフの男を見て、席に着く前から、落ち着きなくしていた。
そんな雰囲気を感じ取ってか、ドワーフの男は飲んでいた酒を飲みほすと、手を上げる。
「姉ちゃん! 勘定をたのむ!」
ドワーフの言葉にセーラとジェノは声をそろえる。
「「まってください!」」
声をそろえた、セーラとジェノは顔を見合わせる。二人は旅の目標を考え、ここでドワーフの男にドワーフの国の鍛冶師の事を聞きたいと思っていた。
だが、今の二人は魔道具で姿を変えているために、聖剣を見せる事はできない。
もし目の前にいるドワーフが鍛冶師であれば、聖剣を見せてしまえば、確実に聖剣と見抜かれてしまう。
人の国にある聖剣は、勇者シュウダの持つ、カイ・ジルシしかない。もし聖剣に気づかれたら、その聖剣を持っているのが勇者でもない男で、しかもひび割れている。
自分達の事を考えたら、問題だらけの状況でそれを知られたら、ドワーフの男がどう動くからわからない。ジェノもセーラもドワーフの男と話をしたいが、どう話したら良いかわからずにいた。
そんな中、ドワーフの男は席を立とうとして、二人は思わず声をそろえた。
「何で俺を止める?」
見知らぬ二人に席を立つのを止められ、少し戸惑うドワーフの男。
「もう、一杯のまないかい? 少し、聞きたい事があるんだ」
そう言ったのはジェノ。ジェノは店員を呼ぶと、ドワーフの男が飲んでいた酒のお代わりを注文する。
「勘定はこちらにつけておいてくれ」
「じゃあ、ありがたくもらうぞ……」
そう言って、ドワーフは運ばれてきた酒を一口飲むと、二人にたずねる。
「それで聞きたい事とはなんだ?」
「どうしても……なおしてほしい剣があって、腕の良い鍛冶師を探しているんだ……」
「ふむ、たしかに人の国で無理なら、後はドワーフにすがるしかないな……その剣は今もっているのか? 試しに見てみたいんだが……」
「あなたは鍛冶師なんですか⁉」
思わず、セーラが立ち上がり、自分のマジックバッグから聖剣を出そうとするが、ジェノがそれを手でとめる。
「ゼラ、今ここでだしてはいけない」
「ふむ、何かわけありか……どこでなら見せれる?」
「冒険者ギルドに行って部屋をかりますので、そこでお見せします」
「わかった、二人が飯を食ったら移動しよう」
セーラとジェノが運ばれてきた料理を食べる間、ドワーフは酒を飲みながらまつ。
「おまたせしました、それではギルドに向かいましょう」
ジェノがそう言うと三人は店をでる。
それを追って、シュウダ、ハーゲン、ラーン、サイドの四人も店をでる。
四人は、店に入る前からラーンの魔法で心の中で会話していた。
「あの店だ……」
指さしたラーンにシュウダが言う。
「ねぇ、ラン。例の二人の冒険者は、本当に二人なのかな?」
「シュウそれを今から確認するんだ。はやる気持ちはわかるが、落ち着いて行こう」
「ハーンの言う通りだ。皆、二人の会話を聞き逃さない様に……」
ラーンの言葉に三人がうなずき、全員で店に入る。
「いた、あそこだ……ん? 隣にいるのはドワーフかな?」
ラーンが二人を見つけ、視線を送ると、シュウダ、ハーゲン、サイドも視線を追い二人を見つける。
「ちょうど隣が空いたな、いこう」
四人は席に着き、店員に軽めの食べ物をたのむと、運ばれてきたものに手を付けながら、となりのテーブルに耳をかたむける。
四人が他愛もない話をしながら盗み聞きしていると、驚くべき言葉が聞こえる。
(剣の修復⁉ まさか聖剣を修復するのか⁉)
(ちょっとハーゲン声が大きいよ、シュウダとサイドちゃんみたいにおちついて)
心の声で会話をしていると、ハーゲンの声が大きくなる。
(いや、僕も驚いているよ……でもどうやって聖剣を傷つけたんだろう?)
(いや、シュウダ君が女神様からもらったスキルを思い出して)
先日のハーゲンの記憶の調整の後、ラーンとサイドは、シュウダが女神からもらったスキルを聞いていた。
(まさか……)
(うん、そのまさかだと思う……)
スキルの内容をしらないハーゲン以外の三人は、魔法でハーゲンに伝わらない様に思う。
((聖剣で毛を切ろうとした?))
サイドが思わず心の声を四人に伝える。
(でも、聖剣が傷つくなんてあるのでしょうかラーン様?)
(しょせん聖剣は人が作り上げた剣だ。神の力にはかなわいんだと思うよ)
サイドの言葉に短くラーンが答える。
(でもラーン。仮に聖剣が傷ついたのなら、やはりドワーフに頼るしかないのかな?)
(シュウダ。さっき私は、聖剣は人が作ったと言ったけど、奇跡がおきたと聞いている。本来ならできなかった剣だと……)
(それは俺も聞いた事がある……シュウダの聖剣は奇跡の剣だと……)
(それなら、また奇跡がおきない限り、人の手で修復するのはむりだね……)
(ではラーン様。セーラ様と姉のジェノは、ドワーフの王国に聖剣の修復にいくのですね)
(たぶんそうだろうね。でもまだ二人がセーラとジェノだと確証がない)
そう四人が心の声で会話をしていると、三人が席をたつ。
(皆、三人が席を立つようだ。私達も行くよ)
ラーンの声に四人は立ち上がる。
(さぁ、二人の正体を探ろう)
そう心の中でラーンが言うと、四人は三人の後を追う。
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