第33話 勇者は追いつく


「ユニコーンを借りれたのは、よかったですね!」


 ドワーフの女の子の姿をしたサイドの言葉に、獣人の女性の姿をしたシュウダと、エルフの女性の姿をしたハーゲンが頷く。


「うん! そうだね。サイ……の言う通り、これならかなりのスピードで進むことができるね」

「ああ、シュウ……の言う通り。これなら先に進む二人に追いつける」

「そうだね、ハー……ン。しかし、誤算だったのは、このユニコーンが処女にしか手綱を握らせないとは……。サイ……とシュウ……に、しか反応しないなんて……」


 今、四人は魔道具で姿を変えているために、それぞれが偽名を使っている。

 サイドはサイ、シュウダはシュウ、ハーゲンはハーン、ラーンはランと呼び合っているが、どこか皆ぎこちない。

 

「ごめんね、サイ。ぼ……私も御者ができれば、良かったんだけど……」


 シュウダは、申し訳なさそうな顔をしてサイドに謝る。


「いえ、シュウ……気にしないでください。ぼ、私は、御者にはなれているので……」


 そう言ったサイドは、馬車を引いている、ユニコーンを見て思う。


(これって、僕とシュウダ様にからだよね……)


 思わぬところで、知りたくない情報を知ってしまったと思うサイド。

 だが、事実はサイドの考えとは違い。ただ単にユニコーンの趣味なのであった。




 それから数日後、四人はセーラとジェノが向かった町に着く。


 そこまで旅の行程は、かなり詰められていたもので、ユニコーンはともかく、久々の旅に四人は疲れ果てており、その日は宿を取るとすぐに四人とも寝てしまい、次の日の朝から、二人を探しはじめていた。


「たぶん、二人の行先はここだと思うんだ……」


 そう言った、ラーンは辺りをキョロキョロと見ている。


「大丈夫、ランの予想をうたがったりしない」

「うん、ハーンの言う通りだよ、きっとこの町に二人はいるはずだよ!」

「そうです、絶対にいるはずです!」


 数日の旅でお互いの呼び名にも慣れ、言い間違いも無くなった四人の会話は問題なく進んでいた。


 だが、会話とは違い四人の行動には、問題があるにもかかわらず、誰も気がついてないない。

 それは今、四人が探して頭の中に思い描いてる姿は本来の二人で、魔道具で姿を変えていると、頭でわかっていながら、その間違いに気づいていなかった。

 しかも、異種族の四人がパーティーを組んでおり、全員でキョロキョロとまわりを見回して居れば、とにかく目立つ……。


 もし、セーラとジェノの二人が四人を見れば、疑ったかもしれないが、幸い二人が四人を見る事はなかった。


「う~ん、二人の受けた依頼と行動を考えると、この町にいるとおもうんだけどな~」


 しばらく、四人で探していたが、一向に見つからずラーンがぼやく。


「ランさん。一度わかれて探してはどうでしょうか?」


 サイドの提案にシュウダ、ハーゲン、ラーンの三人は顔を見合わせる。


「「あっ……そうだ」」

「ああ……四人もいるなら、別々に別れて探せばよかった……」

「私も失念していた……」

「あはははは、私も……」


 賢者の二人が何故気づかなかったと落ち込む中、シュウダも苦笑いをしていた。


「それじゃあ、後で……」


 そう言って、四人はわかれて探しはじめる。


「う~ん、他の村や町に行った可能性は、かなり低いと思うんだけどな~」


 そう言いながら、行きかう人を見ながら歩くラーン。


 そんなラーンの目に二人の冒険者が目にとまる。


(ふむ、二人とも見事な美丈夫だ)


 そう思ったラーンが二人を見ていると、二人とすれ違った女性達がもれなく振り返る。


(そういえば、普通の姿を変える魔道具であれば、元の姿の容姿が、変えた姿に影響が出るはず。つまり二人が男性の姿になっていれば……目を集める容姿になっているに違いない……ってさっき二人を探している時、二人の元の姿を想像して探していたよ……駄目だ少しつかれているのかな? とりあえず、二人の後をつけてみよう)


 ラーンが二人に気づかれない様に後をつけていると二人が話はじめる。

 それに気づいたラーンは聞き逃すまいと、収音の魔法を使い、二人の会話を盗み聞く。


「さっきのブローチ買いたかったけど……あの雰囲気の中ではむりだった」

「まぁ、さっきはのはしょうがない……また後で見に行けばいい」

「えっ⁉ また、行っても良いですか⁉」

「ああ、ゼラはもう欲しい物が決まっているんだし、さして時間もかからないだろう。ブローチを買うくらい大丈夫だ」

「やった! じゃあジェノさん、そろそろお昼にしませんか? お昼の後に、さっきの店に行きす」

「そうだな、たしかにいい時間だ。食事にしよう」


(おっ! これは当たりだね……二人は今からお昼に行くようだから、店の前で三人を呼ぼう)




 しばらく歩いた後、二人が店の中に入っていく。


(よし! それじゃあ、今の間に三人を呼ぼう!)


 そう思うと、ラーンは魔法を使い、三人の心に話しかける。


(三人とも聞いて、例の二人の冒険者を見つけた!)

(本当ですか⁉ 師匠!)

(このタイミングで嘘を言ってどうする! 二人がセーラとジェノかどうかは、まだわからないが、これから二人はお昼にするらしいから、私達も一緒の店に入ろう。今から言う場所に来てくれ)


((了解!))


 しばらくして、二人の冒険者が入った店の前に四人がそろう。


「できれば、二人の席の隣にすわりたいね……では、入ろうか」


 ラーンはそう言って店のドアを開いた。





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