第32話 新しい冒険者


「登録してきたよ」

「師匠、冒険者登録をしなおして、どうするんですか?」

「僕もして、よかったのでしょうか?」


 ラーンに言われ、魔道具で姿を変えた三人は、本来はしてはいけない冒険者の二重登録をして戻ってきた。

 三人の質問にラーンが質問でかえす。


「その前に、三人はセーラとジェノはどこに行ったと思う?」


 ラーンの言葉に顔を見合わせる三人。彼等の様子を見たラーンがさらに続ける。


「うん、わからないよね。でもなんでわからないかな?」


 三人はラーンに言われ少し考えると、口々に答えを言う。


「二人が姿を消した理由がわからないから?」

「ジェノがついていて、追う者がわからない様に細工をしたからでしょうか?」

「単純に二人の情報がないからでしょうか? ラーン様」

「そうだね、ハーゲンとサイド君の答えが正解かな?」


 ラーンはそう言うと、三人に紙を見せる。


「これが、二人が消えた日に冒険者登録をした冒険者のリスト」


 ラーンの手にした紙を見ようと、三人が紙の前にあつまる。


「でもラーン、このリストには二人の名前は乗ってないよ」

「ですね」


 シュウダとハーゲンの言葉に、サイドも頷く。


「三人とも、さっき渡した冒険者証をちゃんと見てくれた? そこに本名がのっていたかい?」


 ラーンの言葉に三人がポンと手を叩く。


「たしかに、僕の渡された冒険者証には、シュウと書かれていた」

「俺は、ハーンだったな」

「僕は、サイってなってました」

「うんうん、何が言いたいのかと言うと、二人も偽名を使っている可能性が高いということなんだ」


 三人はラーンの言葉を聞き、再び顔を見あわせると声をそろえる。


「「なるほど」」

「さらに、登録した冒険者で二人組を探すと、このゼラとジェノって冒険者が怪しい」


 そこまで言うとシュウダが手を上げる。


「そこまでは、わかったんだけど、僕達が偽名を使って、さらに性別まで偽ったギルド証を用意した理由がわからない」


 その言葉にラーンはヤレヤレと言った仕草で、シュウダに言う。


「シュウダ、話のはじめに戻るけど、二人の行方はなんでわからなかった?」

「それは、二人の情報がなかったから……あっ」

「そう、情報を隠したのは二人が追われたくないから、それなのに私達が普段の姿のままで二人を追ったらどうなると思う?」

「なるほど、たしかに我々がそのままの姿で二人を追ったら、噂になり二人の耳に我々の情報がはいりますね」

「そうなると、姉ちゃんなら、上手く逃げると思います」


 そう三人が言うと、ラーンがパチパチと拍手をする。


「正解! ギルドの方には、行く町、行く町で住民が押し寄せてきたら、パニックになるからと言って、偽の冒険者証を頼んだんだ。僕達は二人にばれない様に、二人の後を追いかける」


 そうラーンが言い切ると、今度は三人が拍手をする。

 ラーンは三人の拍手が止まるのを待ち、拍手が止まると再び話はじめる。


「それでさっきの話に戻るんだけど……このリストにある名前で二人組で行動をしている冒険者で、さらにセーラとジェノの名前に近い冒険者となるとさっき言ったゼラとジェノ……」


 ラーンは冒険者のリストの一人に丸をつける。


「ゼラとジェノ……ラーンこれが二人なのかな?」

「ああ、私はそう思っている。二人の情報を探ったら、国外に向かってる動きをしてるし。さらに護衛の依頼を受けたさいに、依頼主と出発前にギリギリで合流したみたいなんだ」


 ラーンの言葉にハーゲンがおとがいに手を当てて言う。


「たしかに普通であれば、護衛依頼主とは出発ギリギリに会うような事は、普通はしませんね」

「そう、さらに合流した時間が、二人が最後に目撃されてから、それほど時間がたっていないんだ」

「姉ちゃん達が慌てて、依頼を受けたと……」

「うん。どうかな? 私は、この二人しかいないと思うんだけど……」


 そう言ってラーンは三人の顔を見ていく。


「たしかにラーンの考え以外に、姿を消した二人と思える人もいないし、予想もできない……僕はラーンの意見に賛成」

「師匠の意見を否定するような部分も見当たりませんし、他の案も俺は思いつかない。まぁ、もともと師匠の考えに賛成しない事はないです。賛成です」

「僕が口を挟める部分もないです。賛成です」


 三人の返事にラーンはうんうんと頷く。


「それじゃあ、今から私達はこの二人の冒険者を追いかけよう!」


 ラーンがそう言うと三人は頷き、その後は全員でギルドの部屋を出る。


「そう言えば、リーダーの名前は何と呼べばいいですか?」


 しばらくの間、ラーンの後ろを歩いていたサイドが尋ねる。


「ああ、そうだ私はラン。ランと呼んでくれるかな」

「「了解!」」

「さぁ、着いた。ここで馬車を借りて二人に追いつくぞ!」


 そう言って、ラーンが止まったのは、馬車を貸す店の前であった。

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