第31話 姿を変える魔道具


「どうしたハーゲン⁉ ハーゲン! 大丈夫か⁉」

「どうしたの⁉ ハーゲン! ハーゲン! 私、磨き過ぎた⁉ 頭が熱かった⁉」


 ハーゲンの二度目の気絶に驚いた、シューダとラーンは必死にハーゲンに声をかける。

 そんな二人にサイドが声をかける。


「あ、あの……話を聞いてください……ラーン様! シュウダ様!」


 声をかけても、必死な二人は気づかずハーゲンに声をかけ続けるため、サイドは大きめの声でシュウダとラーンを呼ぶ。

 サイドが大きな声を上げたために、二人は冷静になる。


「ご、ごめんね。サイドちゃん、どうしたの?」

「すまない、どうしたんだいサイド?」


 サイドは自分を見つめる二人に意を決していう。


「ハーゲン様は、シュウダ様やセーラ様に、ハゲを知られたくなかったのだと思います。そのためシュウダ様とセーラ様がハゲを知っていた事で気絶したのだと思います」


「「えっ⁉」」


 サイドの言葉にシュウダとラーンは衝撃をうける。


(そんな⁉ あれだけ一緒にいたのに、ハーゲンは自分のハゲを僕らが気づいてないと思ってた? そんな馬鹿な事があるかい⁉ ハーゲン君は賢者だよね⁉ それに僕達がハーゲンがハゲてた所で、何か思うと思ったのかい⁉ 僕もセーラもハゲてても、賢者のハーゲンを尊敬しているのに!)


(ハーゲン君は凄く良い男だけど、唯一の欠点である、ハゲを気にする部分はそこまで酷かったのかい⁉ 仲間のシュウダやセーラに知られていたと、知っただけで気絶するほどに……そこまで酷いとは思っていなかった。これまで何度か、密かにハーゲンの記憶を調整していたんだけど……実はこの魔法使うと少しづつ髪が抜けるんだよね……なら、もう記憶を調整する魔法は使わない方がいいね……)


「「そうだったのか……」」


 思わず二人の声が重なった。


「でもこの後、どうしよう……この魔法はあまり連続で使わない方が良いのに……」

「僕もハーゲンとどう接したらいいんだろう?」


 珍しく、二人が狼狽えるのを見たサイドは、話しはじょめる。


「ではラーン様、シュウダ様。ハーゲン様が目を覚ました後の提案をさせていただきます」

「どうしればいいのかな? サイドちゃん!」

「僕も教えて欲しいサイド!」


 サイドの言葉にシュウダとラーンがつめよると、サイドが力強く二人に答える。


「それは、なかった事にするんです!」






(よかった……やはり、さっきの事は夢だったんだな。師匠の行動もそうだが、まさかシュウダとセーラが既に私のハゲを知っていたなんて、どんな悪夢だ! もしも夢でなかったら、二人の態度がおかしいはずだが、見るにそんな様子もない)


 先ほどの事を、夢と処理をしたハーゲンは、ほっと胸をなでおろす。


「「良かった……」」


 四人の言葉が重なる。


「ん?」

「うん?」

「へ?」

「⁉」


 シュウダ、ハーゲン、ラーン、サイド全員がその言葉に反応してしまう。


「どうかしたのか? シュウダ、師匠、サイド君」

「いや、目が覚めたハーゲンが何ともなくて良かったと思ったんだ。ねぇ、ラーン」

「そ、そうだよハーゲン! きぜ、いや、気を失っているときに随分うなされていた様だったからね」

「は、はい! ハーゲン様がきぜ、気を失っている時にうなされていたので、心配していたのですよ」

「そ、そうなのか。それはすいません。心配してもらい、ありがとうございます」


 そこまで言うと、深々とハーゲンは頭を下げる。すると、ラーンが磨いた事で滑りがよくなってしまったのか、ハーゲンのカツラがずれる。


 それに気づいた三人。だた1人ラーンがそれに反応できた。

 ラーンは、ずれそうになったカツラを鷲掴みにすると、頭をなでるようにする。


「か、かわいい弟子を心配するのは、当たり前じゃないかハーゲン!」

「あ、ありがとうございます。では師匠が先ほど言われたように、話をの続きをしましょう」

「あ、ああ、そうだね。じゃあ、まずは三人に渡すものがある」


 ラーンはそう言うと三人にペンダントと新しい冒険者証を渡す。


「これは?」

「ラーン様、これは姿を変える魔道具ですね」

「確かに話に聞いた事はありますが、こんな複雑な魔方式は刻まれていないはずですが……」

「うん、これは、僕が改良をしたもので、従来のものより便利なものなんだ!」

「「おおー」」

「さすがラーンだね!」

「師匠は、魔道具の改良までできるんですね」

「暗部の者達が欲しがりそうですね、さすがラーン様」


 三人は驚いた後、三者三葉にラーンを褒める。


「では、今から皆、魔道具に魔力を流してもらえるかな」


 三人はラーンの言葉にうなずくと、魔力を流す。

 四人の姿が歪む。


「こ、これは……」

「な、なんなんですかこれは!」

「え、な、なぜ?」


 シュウダ、ハーゲン、サイドの姿は女性のものになっていた。


「どうだい! 面白いだろう?」


 そう言ったラーンの姿は、肌の黒いダークエルフの男性になっていた。


「ラーンが男性に見える……」

「師匠がダークエルフ?」

「髪が一切ないです」

「どうだい! かっこいいだろう? それに君達も全員可愛いよ!」


 シュウダは、体毛が金色の狼の獣人女性、ハーゲンはスタイルの良いエルフ、サイドは、小さなドワーフの女の子になっていた。


「それと、今の姿は自分の中で思い描いている、好きな異性像と自分の能力が合わさった姿になっている。何か思い当たる節があるんじゃないかい?」


 そう言ってラーンはニヤリと笑う。


(この金色の体毛はセーラの髪の色かな……)

(うう、イメージが師匠に近い)

(小さな姉ちゃんみたいだけど、ドワーフなのは力が強いせいかな?)


「まぁ、自分の姿を見るのは道中、いくらでもあると思うから、これを渡しておく」


 そう言ってラーンは三人に手鏡を渡す。


「それじゃあ、さっきの冒険者証で三人とも登録をしてくれるかな? ギルドには話を通してあるから、本来はだめな二重登録も問題ない」


 ラーンの言葉に三人は頷き部屋を出ていく。

 1人になったラーンは嬉しそうに呟く。


「しっかり私の事を意識してくれているじゃないかハーゲン」


 そう言って笑うラーンの笑顔は、初々しいダークエルフの青年のものであった。

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