第25話 勇者と大賢者
コンコン
「どなたですか?」
ノックの音が聞こえると、サイドは相手に名前を尋ねる。
「ハーゲンだ」
「ラーンもいるよ」
二人の名前を聞いた瞬間、サイドはシュウダに慌てて視線を送る。視線を送られたシュウダは頷き口を開く。
「二人ともどうぞ入って」
シュウダがそう言って、イスから立ち上がると、扉を開けて二人が部屋に入ってくる。
「シュウダ旅に出るぞ」
部屋に入って来た、ハーゲンはシュウダの顔を見るや否やそう言った。
「旅? 僕達は、魔王討伐の正式発表があるまで、城に居てないといけないだろ?」
「ああ、だからその発表の後に旅にでるぞ」
ハーゲンの言葉にシュウダが困惑するとラーンが助け舟を出す。
「ハーゲン、きちんと順を追って話しなさい。シュウダが困っているだろう」
ハーゲンは、ラーンの言葉に自分の言葉を思い返すと、すぐにシュウダに謝罪する。
「そ、そうですね、師匠。すまないシュウダ。慌ててしまったようだ」
「ああ、大丈夫だよハーゲン。詳しく話をしてくれるかな?」
「ああ、旅の事だが、明後日に王が魔王討伐の正式発表をする。その発表と同時にセーラが病にかかっていると国民に伝える」
ハーゲンがそこまで言うと、ラーンが後を続ける。
「セーラの病は、人の医者では治療することができず、私達三人でその治療をできる人、または薬を探す旅に出るって言うのが、王が国民に伝えるカバーストーリーになるんだ。っあ、もちろん三人って言ったけどサイドちゃんも一緒に来てね」
そう、ラーンに言われて、自分は一緒に行けないのかと思ったサイドは胸をなでおろす。
「だから、シュウダもサイドちゃんも旅の準備をしておいてね」
ラーンの言葉にサイドは、シュウダを見る。サイドに見つめられたシュウダは、目をつむり考えはじめる。
「シュウダ?」
そんなシュウダの様子にハーゲンは、思わず声をかける。だが、シュウダは返事をせず考え込む。
しばらくして、シュウダは考えおわると、ゆっくりと目を開き返事をする。
「ハーゲン、ラーン。悪いけど僕は行かないよ」
「何故だ⁉ シュウダ! セーラは、お前の恋人だろう⁉ 彼女がどこいに居るのか、何をしているのか気にならないのか⁉」
「僕も、そう思っているよハーゲン……僕はセーラの恋人だ。今、彼女がどこで何をしているのか気になって仕方がない。でも、僕も考えていたんだ。恋人の僕にも打ち明けられない事で、セーラは悩んでいたんだと思う……しかも僕の聖剣を持って行方をくらましたんだ、恋人だからこそ言えない事があったのかもしれないし……きっとセーラも苦しんだ上での決断だったと思うんだ……その決断を尊重したい」
「……シュウダ」
シュウダの言葉にハーゲンは黙り込む。
「はぁ……」
部屋に沈黙が広がる中、そうため息をついたのはラーンであった。そのため息を聞いた、シュウダがラーンを見つめる。
「……間違っているかな?」
シュウダの言葉にラーンが眉を吊り上げ、口を開く。
「ああ、間違っているね! シュウダ君はセーラの事になると、勇者なのに勇気をださないね! たしかに、恋人だからこそ言えない事もあるだろう! でもね、無理にでも聞いたり、それができないなら何も聞かずにセーラの傍にいてあげる事もできるだろう!」
「⁉」
「それにセーラは、我慢強くて良い子だよ! 魔王討伐の旅でも、女の子なのに皆を守って一番前で戦い続けたんだ、君も知っているだろう⁉ そんなセーラが我慢できずに、恋人の君にも理由を告げずに行方をくらませたんだ! どうせ、セーラの前で悩みを話してくれないことに、苦い顔でもしたんだろう⁉ それが一番彼女を傷つけたんじゃないか⁉」
「⁉」
「もう一度考えろ! セーラが帰ってくるのを黙って待つのが、本当の恋人か⁉ 逃げたセーラを追いかけて、何も聞かず、いつも笑顔で隣にいるのが恋人か!」
シュウダは考える。
(セーラを信じて待つ。そう決めたけど……ラーンの言う通りじゃないか? 僕は、セーラと自分が……いや自分が傷つくのを恐れたんじゃないか? だから、無理にでもセーラに理由を聞かなかった? それになぜ、今一番つらいはずの彼女の隣に僕はいないんだ⁉)
シュウダはそこまで考えると両手でピシャリと自分の頬を叩く。
「僕はなんて思い違いをしていたんだろう……」
そう呟いたシュウダの言葉にラーンがニヤリと笑う。
「シュウダ。旅の準備をしておいてくれるね」
「ああ、今すぐに飛び出して、セーラを追いかけたいたい気分だよ!」
「「それはだめだ!」」
シュウダの言葉に、ハーゲンとラーンが声をそろえる。
「っぷ! あはははは! 冗談だよ二人とも。でもありがとう! おかげで目が覚めたよ! 旅の準備をしておく!」
「ああ、きっちり準備をしておいてね。忘れ物があったら大変だ、良くサイドちゃんと考えて準備してね」
ラーンはそう言って、手を振りながら部屋を出ていく。
それを見届けた、ハーゲンはシュウダに近づき小声で言う。
「シュウダ、まぁなんだ……師匠ほどではないが、俺も知恵を貸す。どこまで役に立つか分からないがな……それに、セーラとうまくいったら……俺の悩みにも手を貸してほしい」
ハーゲンの言葉を聞き、シュウダが思わず目を丸くするが、そんな様子を見て、ハーゲンが続ける。
「何を驚いている、俺だって悩みの一つや二つある。世間では賢者だなんだと言われているが同じ人間だ、抱えている悩みは違えど、悩みがない人間などいないだろう。困った時はお互い様だ、だから俺の困った事にも手を貸してほしい」
そう言ってハーゲンはシュウダの肩を叩き、部屋を出ていく。
「ありがとう、二人とも……」
シュウダは、扉が閉まると小さな声で二人に礼を言った。
「これで良かったのでしょうか師匠」
「当たり前だ、なぜ勇者と賢者がそろいもそろって、悩んで飛び出した女の子を追わずに、帰ってくるのを待っているんだ。まったくもう……」
そんな言葉を聞き、思わずハーゲンはラーンに尋ねる。
「そう言いますが、師匠だったらどうするんですか?」
「ん? 私だったら? 私だったら、魔法で悩みを吐かせた後に、記憶を消して……何食わぬ顔で気づいたふりして、悩みを解決するかな?」
「聞いた私が馬鹿でした……」
そう言ったハーゲンだが、一つ気づいたことがあり、さらにラーンに尋ねる。
「……あれ? でも師匠。俺に結婚しろと言うのに、俺の髪の悩みは解決してくれないんですか?」
ラーンはハーゲンの言葉を聞くと肩を落として話はじめる。
「はぁ……本当にお前は馬鹿だねぇ~」
「あの、師匠?」
「お前は、自分の問題点をきちんと気づいていないんだ、ここまで言ったんだ良く考えなさい」
そう言って、ラーンは手を振りながら歩いて行く。
(ハーゲン、お前の問題は、その頭への劣等感だ。髪がないのが問題じゃない。その劣等感さえ解決できれば髪を生やしておわりなんだよ……まぁ、セーラを探す旅の途中でそれも解決してあげるよ。題してハーゲン頭を……じゃなかった、ハーゲン男を磨く旅だね。まぁ劣等感が無くなれば、髪をはやそうとなんてしないだろうし……何と言っても私がハゲのハーゲンの方が好きなんだ!)
そう思ったラーンは、先ほどまで肩を落とし疲れた様な足取りからかわり、スキップをしながら自分の部屋に向かう。
一方ハーゲンもラーンとの会話の後、一人考え込む。
(俺が問題点をきちんと理解していない? どういう事だ? ハゲの原因が他にある? なんだ、食生活が問題なのか? 体重も増えていないしバランスも考えて食事はとっている……それとも生活ルーティンか? 髪のある人間と俺の違いはなんだ? 魔法? 魔法なのか? だがそれなら、師匠はどうなる? まさか! 以前、全部髪をそると言っていたが……じつは、師匠もかつら? そんなわけないよな……だが、わからない……これが賢者と大賢者の差なのか……シュウダとの旅でその原因をさぐるか……シュウダはハゲていないしな……じっくり学ばせてもらうぞシュウダ……)
いつになく真面目な眼差しで、自室に向かって歩くハーゲンであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます