第24話 セーラの新しい力
セーラは、フェニックスのゼラと呼ばれるようになった町から、次の町への移動の途中、一緒に護衛中の冒険者から声をかけられる。
「ゼラ。その腕は、この前の火事でか?」
「ああ、それほど酷くはないんだが、治るまでは、巻いておこうと思って」
そう返事をしたセーラの両腕は、包帯が巻いてあった。
先日の火事の時、まわりの者達は、ゼラの腕から伸びる腕毛を見たが、その美しさと滑らかさから、本当の腕毛と思ったものはおらず、腕に羽の様な物をつけていると思うのであった。
火事の後、宿を出る前に、セーラとジェノは、伸ばしてしまった腕毛をどうしようかと頭を悩ませていた。
「やはり、この腕毛は目立ってしまいますね……どうしましょう」
そう言って、悲し気な目で自分の両腕を見るセーラ。そんなセーラを見てジェノが知恵を絞る。
「そうですね……セーラ様。手首から二の腕、肩と巻いてしまうのはどうでしょうか?」
「手首から……それなら、いっそのこと拳を守る、バンテージの様に巻いてしまうのはどうでしょうか?」
「セーラ様! それは、いいアイデアです! 私がすぐに巻いてさしあげます」
ジェノはそう言うと、器用にセーラの腕毛を拳、手首、前腕、二の腕、肩と巻いていき、それぞれ、最後はほどけなくなってはいけないと、引き解け結びにする。
「セーラ様、これでどうでしょうか?」
ジェノがそう言うと、セーラはその場でシャードをして、毛がほどけないか確かめる。
「ほどけないですし、ずれもしないですね。さすがジェノです」
「これで上から包帯をまけば、今日の火事での火傷と言っておけば、誤魔化せるでしょう」
そう言ってほほ笑む二人だが、修道僧やモンクと呼ばれる者達が夢見る、最高の手甲が今まさに出来上がったことに気づかない。
腕毛を巻いただけで手甲と呼ぶには疑問が残るが、魔王を倒した聖剣ですら切ることができない、腕毛で両腕を保護する。しかも、重さは正に腕毛の重さのみ。世界最高峰の軽さと強度を持った手甲。
この時、二人の頭の中はどうやって腕毛を隠すか、それしかなく、これで誤魔化せると、意気揚々と集合場所に向かうのだが、強度の事は完全に頭から抜け落ちていた。
「まぁ、焼けて崩れ落ちる建物の中に入って、それだけで済んだのは、運がよかったな」
「ああ、そ、そうだな……」
実は全く火傷をしていないセーラは、思わず言葉をつまらせる。
その時、ジェノが口を開く。
「全員気を引き締めろ、盗賊だ……」
ジェノの言葉を聞き、全員がすぐにまわりを見まわそうとするが、ジェノがさらに続ける。
「全員、そのまま何も気づかないふりをしてくれ。盗賊はこちらが気づいていることを知らないから、襲ってきた瞬間に返り討ちにする」
「さすがジェノさん。気づいてないと思っている盗賊を逆に驚かせて、一網打尽にするんですね」
「ああ、襲ってくる場所もタイミングも容易に想像できる」
そう会話を交わした後、街道の脇に生える、草木の背が徐々に高くなり、人の腰辺りまで背が高くなったところで、身をかがめていた盗賊が飛び出してくる。
飛び出した盗賊が、はじめに狙ったのはセーラ。盗賊達はセーラを見て、手に武器を持たない事から、修道僧やモンクと予想し、突然襲い掛かれば、盾を持っていないため、剣での攻撃を防ぎにくく、殺しやすいと考えた。
盗賊が手に持った、剣を勢いよく振り下ろす。
パキィン!
そう、甲高い音を立てて盗賊の剣が折れる。盗賊は、飛び出すと同時にセーラに向かって、頭上から真直ぐに剣を振り下ろした。これで盗賊はセーラの頭を叩き割るか、腕で防ぐなら腕の片方は斬り落としたと思った。だが、思いもしない音と共に、手に持つ剣の重さが軽くなり、さらには腹部に強烈な衝撃を受け吹き飛んだ。
セーラは、振り下ろされる剣の軌道に対して、思わず左腕でさばこうとする。だが、腕毛の事を思い出し、試しに腕で剣を受ける。
すると腕で受けた剣が見事に折れ、それを見たセーラは、開いた右手で盗賊の腹部に渾身のストレートを叩きこむ。
他の盗賊達は、仲間がセーラに飛び掛かった時点で、作戦は成功したと思い、自分達も飛び出したが、仲間の剣は折れ、さらには腹部に強烈な一撃をくらい、仲間が吹き飛ぶのを見て、一瞬体を硬直させた。
その一瞬の硬直を待っていましたと、冒険者達は、盗賊達を叩き斬り、突き刺し、矢で射、次々に盗賊を血の海に沈めていった。
盗賊達の撃退が終わると、冒険者達はセーラの元に駆け寄り、驚きで興奮しながら話はじめる。
「ゼラ一瞬ひやっとしたぜ! あの勢いだっただろう? 腕で受けた時は、お前の腕が落ちたと思ったぜ……」
「まったくだ! 盗賊を驚かす前に俺達を驚かせてどうするんだ!」
冒険者達が口々に、セーラの事を心配して、冷やりとしたと言う。そんな冒険者達にセーラ少し困った顔をして答える。
「ああ、すまない。驚かしてしまったな。包帯の下に鉄板をいれていたんだ。それで上手く受け流したんだ。まぁ、盗賊の剣が折れたのは、きちんとメンテをしてなかったんじゃないかな?」
もちろん、包帯の下には、鉄板など入れておらず、あるのはセーラの自前の腕毛だけ。だが、その腕毛の強度を忘れていた。
剣が折れた事を上手く誤魔化したセーラは、腕毛を防具と考えた時、かなりの性能を発揮することに気づくのであった。
その後も、次の町に向かう途中、セーラを心配したと何度も話す冒険者達を見て、セーラは仲間思いな彼等に、一緒に魔王討伐を果たしたシュウダ達の姿を重ねる。
彼等にシュウダ達の姿を重ねたセーラの歩みは徐々に遅くなり、彼等から少し離れると、そっと小さな声で呟く。
「シュウダ、あなたに会いたい……」
ただ一人、後ろを警戒して歩いていたジェノだけが、その声に唇を噛むのであった。
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