第21話 サイドの決意
セーラとジェノが王宮から逃げるように、ドワーフの国に出発した日の夜、王宮内はセーラがいない事に気づき騒ぎとなる。
「こっちはいなかった、そちらはどうだった?」
「いえ、こちらにはいらっしゃいませんでした……」
「いったいどこに行かれたのだろうか?」
そう言ったのは、王宮内を警護する騎士とメイド。今、王宮内は、メイドと騎士達がセーラとジェノを探し回っていた。
夕食時にいつもであれば、調理場にジェノがセーラの夕食を取りに来るのだが、いつまでたっても来ないため、調理場の料理人がメイドに確認を取るように行かせたのがはじまり。
メイドがセーラの部屋に確認を取りにいくと、誰もいないために、警備の騎士に行方を尋ねるが、だれもセーラとジェノの行先を知らなかったため、騒ぎとなった。
魔王を討伐した勇者のパーティーのセーラが突然に姿を消す。これが知れ渡れば、王宮だけではなく、世間も巻き込み大騒ぎになる。
そのため、王は王宮内の者全員でこの事実を共有し、決して外にもらさない様にと、直々に言いわたした。
次の日、メイド達がセーラの部屋を調べる事になるが、そこに置かれていた愛剣のレットをメイド達がどうするかと話し合った結果、恋人のシュウダに預けることとなる。
コンコン
シュウダの朝食がおわり、サイドが後片付けで部屋を出た後、しばらくして扉がノックされる。
「どうぞ」
「「失礼いたします」」
そう言って入ってきたのは、メイドと一名の女性騎士。
シュウダが不思議に思い女性騎士を見ると、その女性騎士は、セーラの愛剣レットを大事にそうに抱えていた。シュウダがそれに気づくと、メイドがレットを持ってきた理由をシュウダに伝える。
「今日、私達がセーラ様の行方の手がかりがないかと、お部屋に入ったところ、この剣が置かれていたので、話し合った結果、シュウダ様に預かって頂くのが良いとなりました」
メイドがそう言うと、女性騎士がレットをシュウダに差し出す。
「ありがとう……あなたも運んでくれてありがとう」
シュウダはメイドと女性騎士それぞれに感謝を口にすると、セーラのレットを受け取る。
二人はシュウダの言葉に黙って頭を下げた後、口をひらく。
「私達メイドでは落としかねないので、女性騎士様にお運びいただきました」
「私も自分の剣は、恋人以外の男性には持ってほしくないと思いますので……」
「二人ともセーラの事を思ってくれて、本当にありがとう」
そう言うとシュウダは深く頭を下げる。
「とんでもございません、どうか頭をお上げください」
「そうです、どうかお気遣いなく」
「ありがとう、二人とも、もし何か困ったことや願いがあるなら、遠慮なく行って欲しい。その時、僕は全力で二人の声にこたえるよ」
「それであれば、私達二人だけではなく、王宮のメイド全員がセーラ様とシュウダ様が再びお会いできることを願っていると、覚えておいてください」
「それは私達、女性騎士もです」
二人がそう言うと、シュウダは一瞬目を丸くするが、すぐに笑顔になり口を開く。
「ありがとう、なら
シュウダがそう言うと、メイドと女性騎士は花が咲いた様な笑顔になり、返事をする。
「「ありがとうございます」」
その後、シュウダは二人が部屋を出るのを見送ると、レットを手に取り一人つぶやく。
「セーラ君はどこに行ったんだ……僕に話せない事とはなんなんだ? 僕は、もう君さえいてくれれば何もいらないのに……もし、君を苦しませる事があるなら、僕がそれを薙ぎ払う……もう、魔王は倒したんだ、皆の勇者は終わりにして、君だけの勇者になる……」
シュウダがそこまで言うと、部屋がノックされる。
「シュウダ様ただいまもどりました。おや? それは、セーラ様のレットですか?」
「そうなんだ、さっきサイドがいなかった間に、メイドさんと女性騎士が持ってきてくれたんだ……メイドさんと女性騎士の皆は、僕とセーラが再び会えることを願っているって教えてくれたんだ……嬉しいな」
「……」
昨日、セーラとジェノが聖剣を持って行ったと予想し、シュウダの前で大泣きしたサイドは、そのまま泣きつかれて寝てしまった。今朝、目を覚ました後、一番つらいのシュウダだと気づいたサイドはシュウダにどう声をかけたら良いかわからなかった。
今も言葉では嬉しいと言っているが、顔は苦悶の表情をしているシュウダを見て、サイドは自分がシュウダにかけられる言葉は、気休めにもならないとわかっているが、声をかけずにはいられない。
「シュウダ様、きっとセーラ様はすぐに帰ってきますよ」
サイドの言葉にシュウダは、サイドの方に顔を向けるとニコリと笑い、口を開く。
「そうだね、きっとセーラはすぐに帰ってくる」
サイドは思い出す、シュウダの執事として、魔王討伐の旅の間もシュウダは、決してあきらめなかった事を、それがシュウダを勇者とする事を……。
「ええ、きっと………」
サイドはそう言ってニコリと笑う。
その笑顔の裏でサイドは、思う。
(きっと、さっきの表情が今のシュウダ様の心の内だろう。僕にも見せるのは笑顔だけ、だけどきっとシュウダ様は辛くても、悲しくても、セーラ様が帰ってくると信じている。主人が信じているのに執事の僕が信じないでどうする!)
「さて、シュウダ様。今日はどうお過ごししますか?」
サイドはそう言いながら、セーラとジェノはすぐに帰ってくると、信じて待つことを決意するのであった。
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