第22話 不死鳥のゼラ


 セーラは、何故か豪華だった宿の夕食後、ジェノにわたされた薬を飲み、ベッドに入る。


 ムダ毛が処理できなくなってから、寝つきの悪かったセーラだが、豪華な宿の夕食と溜まっていた疲れ、ジェノからもらった眠りやすくなる薬のおかげで、すぐに眠りにつくことができた。




 時刻は朝方、まだ日も昇らず起きている者は、ごく一部しかいない時間、それは起こった。


「火事だー!」


 その声に飛び起きたセーラとジェノの二人は、顔を見合わせると、すぐに魔道具に魔力を流し、男性の姿となって部屋を飛び出す。

 二人は辺りが暗い中、部屋を飛び出し、自分達の宿が家事でない事を確認すると、そのままの勢いで、宿を飛び出す。

 二人が宿の外で辺りを見回すと、少し離れた場所にある三階建ての建物が、ごうごうと燃えていた。


「だれか! 水の魔法を使える奴はいないか!」

「あんたで最後か⁉ 他に建物に残っている奴はいないか⁉」


 燃え続ける建物の前は、逃げ出した者や火を消そうとする者達でごった返している。

 そんな騒ぎの中、建物の中から一人の女性が抱きかかえられ助け出された。


「おい! 道をあけろ! 邪魔だ! 邪魔だ!」


 女性は、勇敢にも火の海に飛び込んだ男性に見つけられ、助け出されてきた。

 助け出された女性は、意識が朦朧としていたが、外の空気を吸い、意識をはっきりさせると、途端に叫びだした。


「だ、だれか! まだ建物の中に子供が!」


 彼女が言うには、建物から逃げ出そうとする人々に巻き込まれ、子供とはぐれてしまったらしい。それでも、火のまわる建物の中を探していたのだが、煙にまかれ倒れしまった。そんな彼女を助けたのが先ほどの男性。だが彼は彼女以外、誰も見つける事ができなかったと言う。

 そのため、皆で逃げ出した人と助け出された人を確認するが、その中に子供の姿を見つける事は出来なかった。


「お願いします! 誰かうちの子を! お願いします! 誰かうちの子を! きっとまだ中にいるんです!」


 女性は叫びながら、まわりの者達に懇願するが、誰も返事をすることができなかった。

 建物は、もう炎に包まれており、どう考えても今から建物に入るのは、自殺行為だった。


 そんな中、水がこぼれる音がする。


 皆が音の方向に視線をむけると、ジェノが叫ぶ。


「だめだ! ゼラよすんだ!」


 ジェノはそう叫びながら、セーラを止めようと手を伸ばす。

 だが、セーラは頭から水をかぶると、ジェノの伸ばした手を振り切り、そのまま火の海に飛び込んでいく。




「誰かいませんか!」


 セーラは火の海の中、声を上げながら階段を使い上に上にと登っていく、すると二階に上がったところで、上に続く階段の途中に小さな女子が倒れていた。


「あなた大丈夫⁉」


 セーラが慌てて駆け寄るも、女の子はぐったりとし反応がない。


 そんな時、セーラに向かって炎に包まれた柱が倒れてくる。セーラが思わず女の子をかばうと、その柱はセーラの頭部へと直撃した。

 だが、炎に包まれた柱は、セーラの頭部に、その大きさからは考えられない、小さな衝撃しか伝えなかった。セーラは思わず呟いた。


「こ、これは……髪のせい?」


「ごほっ! ごほっ!」

「⁉」


 セーラが混乱する中、女の子が咳き込み、我にかえるセーラ。


(私は大丈夫だけど、このままでは女の子が……)


 そう思った時、セーラの中で名案が生まれる。


(そうだ、スキルを使えば! でも……)


 そう思った瞬間、セーラの足元が崩れた。




「危ない! 中が崩れたぞ!」


 外で見守る者達の前で、建物の窓や扉から、大量の火の粉が舞い、中からガラガラと崩れる音がする。


「ゼラ!」

「よせ! お前も危険だ! 建物全体が崩れるかもしれない!」


 建物の中が崩れ、思わずジェノが一歩前に出ると、慌ててまわりの者がジェノをとめる。

 ジェノは何故、さっきセーラと一緒に飛び込まなかったのかと、悔やんだ。


「セーラ様……」


 ジェノが思わずそう言った瞬間。


「おい! でてきたぞ!」


 建物の入り口から見える中は炎の海、だがそこに人影が浮かびあがるのを見て、まわりの誰かが叫んだ。

 その炎の中から出てきたのは、女の子を抱えたセーラであった。


「「うおおおおおおお!」」


 セーラの姿を見た、まわりの者達は、その生還に声を上げた。

 セーラに女の子の母親が駆け寄ると、セーラは女の子をそっと渡す。

 ジェノもセーラに笑顔で駆けよるが、セーラの姿がはっきりと見える場所までくると、ジェノはその表情を氷つかせる。

 それはセーラの両腕、手首から二の腕肘にかけて、見慣れない物が目に入ったため。


 その見慣れないものとは、両腕を広げても地面に付きそうなほどの長さの、豊かな

 ジェノの後から、セーラのまわりに集まって来て者達もそれに気づき、口々にいう。


「おい! あんたやったな!」

「おれは、もう正直あんたも子供も助からないと思ってたぜ」

「すげーな! あんた! あの火の海に飛び込むとは!」

「しかし、あんた。それ、腕に妙なものつけてるな」

「ああ、なんだか羽みたいだな」

「火の海から、戻って来た赤い羽を生やした、赤髪の冒険者……」


 魔道具を使って、男性の姿になったセーラの髪色は、赤い色をしていたが、スキルで伸ばした腕毛の色も真っ赤であった。


「おい! あんた名は?」


 そう言って肩を叩かれ、セーラは我に返る。


「あ、ゼラと言います」

「じゃあ、不死鳥フェニックスのゼラだな! おい! 不死鳥フェニックスのゼラの誕生だ!」

「おい! 吟遊詩人! 今日の事を酒場で歌え!」


 男がそう言った瞬間。まわりにいた者達が声をそろえる。


「「フェーニックス! フェーニックス! フェーニックス!」」


 その日、この町からの発信で、フェニックスのゼラという二つ名が広がるのであった。

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