第19話  ゼラとジェノの活躍


「時間だ交代する。二人は休んでくれ」

「ああ、そうさせてもらう。ゼラ、休むぞ」

「はい、ジェノさん」

「後は頼む」


 セーラとジェノはそう言って、自分達のテントに入っていく。

 交代した冒険者達は、二人がテントに入るの見届けると火のまわりの椅子に腰を下ろし、今日一日の事を振り返る。


 彼等は四人のチームで動く冒険者達で今は、そのうちの二人が火の番をしている。

 二人は火が消えない様に様子を見ながら、辺りを警戒する。

 しばらくの間、火の燃える音だけがしていたが一人の冒険者がぽつりと呟く。


「しかし、二人ともとてつもなく強かったな」

「ああ、本当にCランクなのが不思議なくらいだ」


 冒険者は仲間の言葉に思わず同意する。


「正直な事を言うと、二人ともBランクもしくは……Aランクもありえるのではないかと思うほどだ……」




 皆で王都の門を出て、人通りの多い街道を進んできたが途中で、狼の魔物に襲われた。


 事実だけで言うならばそれで間違いないのだが、実際はジェノがいち早く魔物に気づき、全員で魔物が来るのを待ち構えて撃退した。

 狼の魔物は見た目の通り、狼の特性を持ち、集団で獲物を襲う厄介な魔物。

 普段であれば死者は出ないかもしれないが、決して油断できる相手ではない。

 魔物達は、身を隠し近寄り集団で襲ってくる。


 それができるのは、狼の魔物が人より早く相手を見つけるため。

 

 だが、今日はジェノが先に狼の魔物に気づいた。しかも、とんでもない事を言って。

 馬車の少し前を歩いていたジェノが不意に立ち止まり、皆に声をかける。


「止まってください」

「どうした?」

「どうやら狼の魔物が私達に気づいたようです。右手前方の森の中、固まっていた集団が広がって取り囲む様にむかってきます」

「本当か⁉」


 そう言った冒険者の視線は仲間に向いていたが、仲間の冒険者は肩をすぼめて、両手を上にあげていた。


「俺にはわからん、この距離だぞ」


 彼等は普段からチームを組んでいる冒険者、その仲間の一人が斥候役を担当する冒険者なのだが、彼は半信半疑でそう言った。

 彼の仲間もジェノの言葉を信用するには遠すぎると思い、彼に聞いたのだが帰ってきたのは、自分達と同じわからないという反応であった。


 それも今彼等がいる場所から、森までの距離は、とてもではないが魔物に気づける距離ではなかった。


「この先の街道と森が一番近づく場所で襲ってくるのでしょう。気をつけてください」


 ジェノが確信をもって話す様子を見て、冒険者達はジェノの言葉を信じ、進んで行く。

 皆で警戒して進んで行く中、ジェノが言った街道と森の距離が一番近づいたところで魔物が森から飛び出してきた。


「来たぞ!」


 ジェノが言った通り、狼の魔物はジェノ達を取り囲む様に広がりながら走ってくる。

 斥候の冒険者が弓で矢を放つが、素早く動きまわる狼にあたらない。


「そのまま矢で牽制してくれ! 動きを鈍らせるだけでもいい!」


 ギャン!


 冒険者達のリーダーがそう言った瞬間、狼の魔物の悲鳴があがる。

 声の方に視線をずらすと、眉間を撃ち抜かれた狼の魔物が倒れていた。


「おいおい、まじか……」


 ジェノの隣にいた斥候役の冒険者が、茫然としながら思わず呟く。


「次の矢を!」


 ジェノが茫然とする冒険者に気づき、叫ぶ。

 冒険者はその言葉で我に返ると、すばやく背の矢筒から新しい矢を取りだし弓で放つ。


「くそっ! 数が多い!」


 ジェノ達が矢を放ち魔物を倒していくも、森から出てくる数が多く、矢をかいくぐり冒険者に飛び掛かる。冒険者達も自分達の武器で対応するも、数が多く魔物におされる。


「ゼラ!」

「はい!」


 ジェノに言われセーラが魔法を使う。


「こ、これは支援魔法か⁉ ありがたい!」


 支援魔法で動きが良くなり、冒険者達は徐々に勢いを増していく。

 勢いを増した冒険者達に、徐々に押されはじめた狼の魔物が、その動きをとめじりじりと後退していく。


「よし! 下がりはじめたぞ!」


 冒険者のリーダーがそう叫んだ直後、セーラがここだと思い叫ぶ。


「皆さんは、馬車と商人の方をお願いします!」


 セーラが叫んだ瞬間、セーラの気配が大きく膨れあがる。


 ズン!


 そう聞こえたと思うほどの振動を冒険者が感じた瞬間、セーラの足元の地面が陥没し、それと同時にセーラが弾丸の様に飛び出した。

 セーラが真直ぐに向かったのは、魔物の群れで一番奥にいた、ひときわ大きな個体。その魔物はセーラのスピードに驚き、すぐに逃げ出そうとするが、セーラは魔物に追いつき、手刀の一撃で魔物の首の骨を粉砕した。


 地面に叩きつけられる魔物、その魔物は群れのボスだったらしく、ボスの魔物の姿を見た他の魔物達は散り散りになって逃げていく。


「おお! やったぞ!」


 冒険者達は魔物が散り散りに逃げていくのを見て勝利の声をあげた。




 魔物との戦いを思い出したリーダーが尋ねる。


「最後のゼラの一撃、目で追えたか?」


 リーダーの男の言葉に斥候役の冒険者が首を振る。


「だよな……しかも、あの戦いでほとんど汗もかいていなかったぜ……」

「本当か⁉ ジェノの奴も終わった後、平気な顔をしていたが俺は正直、矢の放ちすぎで指がいたかったぜ」

「おいおい、なにがどうなってやがるんだ……最近の新人はあんなのがゴロゴロいるのか……」

「……いや、ギルドの訓練所の新人は平和なものだったぞ」

「「……」」


 それはそれで心配になる冒険者達は黙り込む。その沈黙を破ったのはリーダの冒険者。


「とりあえずあの二人の詮索はなしだ」

「ああ、それに賛成だ」

「龍の尻尾は踏みたくないからな……」


 そこまで言うと、冒険者達は火にまきを放り込んだ。


 なお、ボスの狼の毛皮をセーラが欲しいと言ったさい、冒険者達は支援魔法もかけてもらえたし、倒したのもセーラのために誰も反対するものはいなかった。


(これで服を作れば、きっとシュウダに似合うはず!)


 そう思ったセーラは、笑顔をで毛皮を受け取った。


 ただ、護衛対象の商人だけが、手を上げるか迷っていたが、何も言うことができず泣く泣くあきらめていた。


「あんな大きな個体の毛皮、しかもほとんど傷がないもの……いったいいくらの値がついただろう」


 商人がそう呟き、寝付けなかったのは誰も知らない。


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