第17話 モンクのゼラ


 手鏡で自分の姿を一しきり確認したセーラは、ジェノに尋ねる。


「これで私の姿を隠せましたが、ジェノはどうするのですか? 私が姿を変えてもジェノがそのままだと、私達を探すものがいたら、ジェノを間違いなく追いますよね?」

「さすがセーラ様。今、お渡した魔道具と似たような物を私も持っています」


 ジェノがそう言うと、一瞬で装備と姿が変わる。ジェノの姿は、今までのメイド姿ではなく、男性の弓手の姿となり、その手にはいつの間に弓が握られていた。


「弓手ですか⁉」


 セーラがそう言うと、ジェノは背の矢筒より1本の矢を抜くふりをし、弓をギリギリと引き絞り、弦をはなす。その所作は、セーラから見てもベテランのものであった。


 ジェノは空うちした弓を背に背負うと、セーラの方に向き直るり、すぐそばまで歩み寄えると一言小さな声でささやく。


「セーラ様のメイドになる前は、色々ありましたので。内容は聞かないでください」


 ジェノの言葉を聞いたセーラは、ニコリと笑い黙って頷いた。

 その姿を見たジェノもまた黙って頷き、来た道を振り返り口を開く。 


「ではセーラ様。もう一度冒険者ギルドに行って、新たな冒険者登録をしましょう。私は、この姿で冒険者登録をしておりますので」

「わかりました。あと、ジェノの事を今の姿では、何と呼べばいいでしょうか?」

「私の事は、そのままジェノとお呼びください。冒険者登録もこのままジェノでしていますので。問題は、セーラ様ですね……さすがにセーラ様のお名前は有名すぎるので……なんとお呼びしましょうか?」

「そうでうすね良ければ、ジェノが名付けてください」

「……では、ゼラとお呼びしてもいいでしょうか?」

「ゼラですね、よろしくお願いします」

「……あと、セーラ様。我々は今、男性の姿なので口調も変えなければいけませんし、私の冒険者ランクはゼラより高いのでこれから敬語を……使っていただけますか?」

「ジェノ、わかりました。これかよろしくお願いします」

「申し訳ありませんが、よろしくお願いします。ではゼラいくよ」

「はい、ジェノさん!」


 二人は再び、冒険者ギルドにやってくる。


「こんにちわ。本日はどのような御用でしょうか?」

「彼、ゼラの冒険者登録をしたいんだ」

「ゼラと言います、モンクのゼラです。よろしくお願いします」

「わかりましたでは、手続きをいたしますので、こちらの登録用紙の空欄に記入をしてください。空欄は全部埋める必要はありませんが、できる限り書ける範囲でいいので記入をお願いします。ギルドも冒険者の情報はしっかりと把握しておきたいので」

「それはなぜですか?」

「自分の切り札や特殊能力は、冒険者の生命線でもあるので、全てを書いていただく必要はありません。ですが、ギルドの使命依頼が出された時や、依頼を受けるさいに、その冒険者の情報をしっかりと把握しておけば、事前に事故や失敗を防ぐことができます。駆け出しの冒険者の方は、自分の実力を高く見せようとしたり、自分の実力を高く思いがちで、少なくない人数の方が命をおとすので……」

「わかりました、肝に銘じておきます」

「ゼラさんは、ジェノさんと一緒に冒険者の活動をされるんですか?」

「はい、ジェノさんにお世話になるつもりです」

「それは、良いですね。ジェノさんはCランクの冒険者でベテランですので、きっとジェノさんの言う事を聞いていれば、良い冒険者になると思います」

「わかりました」

「では、記入をお願いします。記入がおわりましたら、登録用紙を受付にお持ちください」

「はい」


 セーラとジェノは一旦受付から離れて、セーラが受け取った紙に目を通す。


「ゼラ。何かわからない事はあるかい?」

「戦闘スタイルは格闘として、使える魔法に治癒魔法も書いてだいじょうぶでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ。冒険者の中にも、治癒魔法を使えるものはいるからね」

「わかりました。じゃあこれで完了したので受付に提出してきます」


 セーラが登録用紙を受付に持っていくと、問題なく登録が完了し、二人はギルドを後にする。


「これで当初の目的は達成したから、旅の準備をしてすぐに王都をでよう」

「わかりましたジェノさん」


 もともと、セーラは魔王討伐の旅を続けるうえで、マジックバッグに常に旅支度の用意があったのと、様々な状況に用意をしていたジェノの二人は、少し食料を買い足すだけですんだ。

 準備がおわると二人は、再び冒険者ギルドに来ていた。


「よしゼラ。この護衛依頼をうけよう」


 ジェノはそう言って依頼票を取ると、受付に持っていく。

 セーラ達は受付時間ギリギリに滑り込む様に護衛依頼を受け。護衛対象の指定する場所に向かった。


「皆様、急な護衛依頼を受けていただき、ありがとうございます。目標の町には予定では1週間ほどで、途中に野宿もありますが、皆様の準備はよろしいでしょうか? 多少、野宿に必要な道具や食料に余裕は持たせてはおりますが、それを頼りにされては困りますので……」


 そう言って商人は護衛依頼を受けた冒険者達の顔を見回す。


「大丈夫なようですね。それでは出発いたします」


 商人が馬車に乗り込むと、護衛依頼を受けた冒険者が馬車の周りを囲んだまま、王都の城壁をぬけるのであった。

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