第16話 セーラの変相


「今セーラ様が預けている金額全部ですか⁉」


 セーラの言葉に冒険者ギルドの受付嬢が声を荒げる。


「はい……」

「セーラ様、大変申し上げにくいのですが……各場所のギルドで所持している金額は限りがありまして……そのためセーラ様がギルドに預けている金額全部を引き出すと言われても、一度に下ろせる限界があります。そのため、お日にちをいただき、分割でお渡しすることになります」

「そうなのですね……」


 

 困った顔をしたセーラと受付嬢の話を聞いていたジェノがセーラにそっと耳打ちする。


「セーラ様、全部を一度に下ろさなくても、金貨五百枚ほどあれば、不自由ないと思われます」


 それを聞いたセーラは、勢いよく受付嬢に尋ねる。


「で、では! 金貨五百枚ほどであればおろせるでしょうか⁉」

「金貨五百枚ほどであれば問題ありません。準備をいたしますのでしばらくお待ちいただけますでしょうか?」

「わかりました、ではお願いします」

「少々お待ちください」


 そう言って、受付嬢は頭を下げると、受付の奥にある扉に入っていく。

 しばらくして、受付嬢が戻ってくる。


「お待たせしました。枚数の確認をお願いします」


 そう言って、受付嬢が金貨を十枚づつ積み上げると、セーラとジェノは積み上げられた金貨を数えて枚数を確認する。二人は金貨の枚数の確認をおえると、すぐに金貨をセーラのマジックバッグにいれていく。


 このマジックバッグは、バッグを作る過程で魔法が使われており、バッグの中の広さが見た目の数十倍あり、見た目以上にものを入れられるバッグである。これは、魔王討伐の旅に出る際に、勇者のパーティー全員に王宮から支給されたものであり、その中の広さも人の国にある最大級のものであった。


「確かに全部で五百枚ありました。ありがとうございます」

「いいえ、いつもお世話になっているのは冒険者ギルドです。本日はご利用、ありがとうございました」


 受付嬢が丁寧に頭を下げるとセーラとジェノも頭をさげ、冒険者ギルドを後にする。


「セーラ様、念のため急いで場所をうつします」


 冒険者ギルドを出た瞬間、ジェノはそうセーラに耳打ちすると、ギルドのあった大通りから、何本も伸びているわき道に入る。

 ジェノを先頭に、細いわき道を早足で右に左にと進んで行く。しばらくして、ジェノがその場で足を止め振り返る。


「ここまで来れば、後をつけられる心配もないかと思います」

「ギルドから誰かつけてきていたんですか?」

「質の悪い冒険者がギルドの酒場で席を立っていたので……」

「そうだったんですね……」


 ジェノの話に驚いたセーラだが、すぐに気づけなかった自分に暗い顔をする。

 そんなセーラをフォローするようにジェノが口を開く。


「セーラ様は魔王討伐のために魔物と戦う事はあっても、人と戦う事は少なかったので仕方がないと思います。それに質の悪い冒険者と戦いになったとしても、魔王討伐の一員だったセーラ様が負けるはずがありません」


 セーラはジェノの言葉に頬を赤らめながら口を開く。


「ジェノ、ありがとう」


(んほぉ)


 セーラの言葉に、心の中で喜びの声を上げたジェノだが、すぐに顔を引き締めセーラに尋ねる。


「セーラ様。セーラ様のマジックバッグの中に予備の武器屋や防具はありますか?」

「防具はありますが……武器がありません……」

「では、普段セーラ様が着ていた、聖騎士の鎧ではない防具に着替えましょう」

「こ、ここで着替えるのですか⁉」


 ジェノの言葉に声を荒げるセーラだが、ジェノは自分のマジックバッグより魔法の道具を取り出しセーラに説明する。


「セーラ様こちらを使います。この宝石に魔力をこめると半径二メートルほどの黒い球体が現れます。その中は、外から中の様子を覗くことはできません。私が外で見張りをしますのですぐにお着がえ下さい」


 ジェノに言われセーラは、宝石に魔力を注ぐ。するとセーラを包む様に黒い球体が現れセーラから外の様子が見えなくなる。


「セーラ様こちらからお姿が見えなくなりましたので、お着がえをお願いします。装備する防具は、できれば普段の聖騎士の鎧とイメージがはなれたものをお願いします」

「聖騎士の鎧のイメージからはなれたものですか……」


 そう呟きセーラはマジックバッグから防具を取り出し着替えはじめた。


 ジェノがセーラの着替が終わるのを待っていると、それまでセーラの姿を隠していた黒い球体が消え、着替えたセーラがあらわれる。


「っ⁉ セーラ様素敵です。たしか、セーラ様は子供頃は修道院で生活されていたと聞きました。セーラ様の身体能力が普通の聖騎士とは違い、速さに特化していたのはそのためだったんですね」


 今のセーラの姿は、いつもの鎧姿ではなく、肘や膝となどのプロテクターに加え、動きやすさを追求した修道僧やモンクと言われる、素手で戦う者達の服装であった。


「この姿であれば素手で戦ってもおかしくないでしょ」


 そう言って、セーラは構えをとると、ジェノの前でジャブ、ストレート、からのハイキックのコンビネーションを見せ、そのままハイキックの姿勢でピタリと数秒止まると、ゆっくりと足を下げる。


「では、セーラ様こちらもお使いください」


 ジェノは髪留めとペンダントを渡す、セーラは二つを受け取ると、髪を1つにまとめ、ペンダントを首かける。するとセーラの姿が歪み、男性の姿になる。


 ジェノはセーラの姿が変わったのを見て、手鏡を差し出す。


「セーラ様、これでお姿を確認してください」


 自分の姿が見れないセーラは、不思議そうにしながらその鏡を受け取ると、ジェノに言われるままに覗き込む。


「こんな道具があるのですね」


 セーラは驚きそう言うと、真っ赤になった髪色と、視線を落とし興味深そうにしながら、男性のものに見える自分の腕を見ていた。

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