第14話 セーラの呪い


 しばらくの間、ジェノは考える。


「セーラ様、この様にムダ毛が硬くなった日はいつかわかりますか?」


「正確にはわかりません。ですが……魔王城に入る数日前には、ムダ毛は処理できました……それから魔王を倒して、城に戻ってから数日後に処理をしようとしたらこのような状態で……」


「……魔王が残した何かの呪いかもしれませんね……」

「呪い……ですか?」

「はい。セーラ様は聖騎士になってから状態異常にかかりにくくなってます。特にセーラ様の加護は教会で貰えるものの中でも、特に強いもののはず。そうでなければ魔王討伐の一員で盾役が務まるはずがありません」

「確かに魔王討伐の旅の途中で、呪いの毒や石化、出血を増進させる攻撃はほとんど効いた事がありませんでした……」

「これは想像の域を出ませんが……魔王を倒すことで受けた呪いならば、普通の者であれば即死、もしくは重い障害が残ると思われるところを、セーラ様の状態異常に対する耐性が強いために、この程度ですんでいるのかもしれません」

「なら、教会で解呪をしてもらえれば!」

「もしかしたら、呪いが解けるかもしれません。一度、鑑定のできる者に鑑定していただきましょう。私の知り合いの女性が鑑定を持っているので頼んでみます」

「至急お願いできますか?」

「今から行ってまいります」

「お願いします」


 セーラはそう言うとジェノに深く頭を下げる。


 幸い昼食後であったため、ジェノはすぐに知り合いの元に向かいセーラの元に戻ってくる。


 コンコン


「セーラ様ただいま戻りました」

「ジェノおかえりなさい」


 セーラはジェノに挨拶を済ませると、彼女の後ろにいる女性に向く。


「急にお呼びしてすいません」

「いえ、ジェノ先輩にはいつも大変お世話になっているので、お気になさらないで下さい」


 そう言って彼女はセーラに頭を下げる。


「では、お願いします」

「かしこまりました……鑑定!」


 そう言った彼女はセーラの頭から足の先まで視線を動かす。


「こ、これは……」


 そう言った彼女は、視線を戻す様に足の先から頭まで視線を上げていく。その間に何度も目を擦ったり、懐から目薬を出し、目にたらす。


「何か、呪いはみつかりましたか?」


 思わずセーラが尋ねると、彼女は静かに首を横に振る。


「いいえ、呪いは見つかりませんでした。ですが……」

「「ですが?」」


 彼女の言葉にセーラとジェノが声をそろえる。


「こんな事ははじめてなのですが……セーラ様のステータスに鑑定できない部分があります……」

「鑑定スキルで鑑定できない? 鑑定のスキルレベルが最高の貴方が⁉」


 その言葉に驚き声を上げたのはジェノであった。


「はい、先ほども言いましたが……こんな事ははじめてです……ですが、この鑑定できない部分に呪いがあるとは思えません」

「なぜですか?」

「セーラ様、私は以前に呪いの種類を断定するために鑑定を行った際、呪いのステータスは黒いモヤの様なものをまとっているのを目にしました。私が鑑定できないような呪いならその種類は見る事ができなくても、そのステータスに黒いモヤの様なものが見られると思います。後は……何か魔法がかかっているのかもしれません」

「そうですか……」

「お力になれず、申し訳ありません」

「いえ、突然の事に対応して頂きありがとうございました」


 セーラがそう言うと、彼女はセーラの部屋を後にする。


「……」

「……」


 彼女が部屋を出るのを見届けたセーラとジェノは、沈黙する。

 しばらくの間、重苦しい沈黙が続くがジェノがそれを打ち破る。


「セーラ様、シュウダ様の聖剣をお借りしましょう」

「聖剣カイジ・ルシですか⁉」

「はい、ルシであれば呪いも魔法も打ち消してくれるはずです!」

「ですがどうやって、お借りしましょう……」

「セーラ様はやはりシュウダ様に理由をお教えするのは、恥ずかしいですか?」

「……はい」

「では、今から勇者様のお部屋にお邪魔して、勇者様が席を外した時にお借りしましょう。呪いや魔法が解ければその後は、きっとムダ毛も処理できると思います」

「そうですね、呪いや魔法がかかっているなら、その解除であればすぐですね」

「はい。では私はシュウダ様のお部屋に先におうかがいして来ます」

「お願いします」


 セーラはそう言ってシュウダの部屋にジェノを送り出す。


 コンコン


「ジェノです。セーラ様、シュウダ様のお部屋にお邪魔しても良いそうです」

「わかりました」


 ジェノの言葉にセーラは、椅子から腰を上げシュウダ部屋に向かった。


 コンコン


「セーラです。シュウダお邪魔してもいい?」


 ガチャリ


「ようこそセーラ」


 そう言ってシュウダが部屋のドアを開ける。セーラが部屋に入ると、眩しいくらいの笑顔をシュウダがセーラ向ける。


 いつもなら、シュウダから向けられる笑顔は嬉しいはずのセーラだが、今回だけは違った。


(ごめんなさい、シュウダ……あなたの聖剣を少しだけお借りします)


 セーラは、これからする事を心の中で密かに謝るのであった。


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