第13話 セーラとジェノの決意


 翌日、セーラが昼食をとりしばらくすると、部屋がノックされる。


 コンコン


「どなたですか?」

「ジェノさん、お伝えしたい事がございます」


 それは、女性の声でジェノに用があると言う。


「セーラ様、少しだけ失礼いたします」


 そう言って部屋を出るジェノ。セーラは特に何も思わず、ジェノが部屋を出るのを見届けたが、この後ジェノから驚くべき話を聞かされる。


 それは、ついに魔王討伐の正式な発表がされる事と、更には王家がセーラとシュウダの結婚を発表したいとのこと。


 二つともセーラにとっては非常に嬉しい事で、本来であれば結婚の話もセーラは、二つ返事で良い返答をしただろう。

 だが今は、結婚話の返事は非常にしい。長年の悩みから解放された直後に現れた、新しい悩み。それがシュウダとの結婚の返事を邪魔する。


 王家としては、もともと仲睦まじい勇者ム・シュウダと聖騎士セーラの結婚は、魔王を討伐した今後の平和の象徴にしたいと考えており、さらに言うと賢者ハーゲンと大賢者ラーンの結婚も考えていた。


 だが、ハーゲンとラーンの結婚を発表することは、ハーゲンによって止められた。二人の賢者の関係は、シュウダとセーラの関係の様にうまくいってるものではなく、ことさらセーラとシュウダの結婚を魔討伐の発表と同時にしたいとのことであった。


 セーラとしては、何とか結婚の発表を先延ばしにして、ムダ毛を処理する方法を見つけたかった。


「セーラ様、お返事はいかがいたしましょう?」


 そう尋ねたのはジェノであったが、彼女はセーラの悩みの内容をまだ聞けておらず、十中八九セーラの返事が良い物ではないと思いつつも、王家からの言葉のため心苦しくてもセーラに尋ねた。


「ジェノ、すいません……返事は少しお待ちして欲しいと伝えてください……」

「かしこまりました……私はそのお返事を伝えてまいりますので、失礼いたします」


 そう言うと、ジェノは部屋を出る。


「もう時間がないですね……」


 そう言ったセーラの目に決意が込められていた。




 ジェノがセーラの返事を王家に伝えると、すぐに問いただされる。

 それは、魔王討伐の後に二人の仲が悪くなったのかというもの。

 それに対してジェノは答える。


「セーラ様とシュウダ様の関係は、良いと思われます……」

「では何故良い返事がすぐに帰ってこないのだ?」

「それは、わかりかねます。数日前からセーラ様の様子がおかしく、何か理由があると思われますが……まだ私は、その理由を聞けておりません……」

「……わかった。では数日中にその理由を聞き、それが悩みであれば、すぐに解決するのだ! 多少の無理は、王家も支援する、理由をすぐに聞き出すのだ!」

「かしこまりました」


 ジェノの目にも決意が込められる。この時、王宮内でジェノとすれ違ったものは、その目を見て誰もが怯えた。セーラ付きのメイドのジェノは、王宮内にいるにも関わらず、セーラに対し害をもたらせる者に対して、かなり高い権限を持っていた、場合によっては相手の殺害も許されるほどに。

 そんな彼女が恐ろしいほどの決意を瞳に込めて歩いていた。誰かが今日、殺されるのではないかと思うほどの決意を込めて。


 後日すれ違った者達は、言った。あの日のジェノの背後には死神の幻影が見えたと……。


 コンコン


「どなたですか?」

「ジェノです」

「……どうしました? どうぞ入って」

「失礼します」


 いつもであれば、ジェノは名乗りしだい、セーラの言葉を待たず入るように言われている。

 だが、この時ジェノはセーラの言葉を待った。

 部屋とすぐにジェノは王家との話をセーラに伝える。


「私もジェノに相談しようと思っていたんです……」

「セーラ様……」

「ジェノ、これから私と一緒にお風呂に入ってもらえるでしょうか?」

「わかりました……」


 ジェノは風呂に向かうセーラの後を黙ってついていく。

 ここの中で一言だけもらして。


(んほぉ……)


 早くも決意が揺るぎそうになるジェノ。




(相変わらず、美しい……ですが……)


 その存在に直ぐに気づくジェノ。


(珍しい、セーラ様はムダ毛の処理には気をつけているため、セーラ様自身の目の届く範囲でムダ毛をめったに見る事はありませんでしたが……今は……)


 セーラの体に全体にうっすら見えるムダ毛、心の中でジェノはそれを目にしていることに驚いていた。


「まずは見てください……」


 そう言ってセーラは剃刀をジェノの目の前でムダ毛に当てる。


 カチッ! カチッ!


「えっ⁉」


 予想もしていなかった音に、普段冷静なジェノが驚きの声を上げる。

 さらにジェノの目には信じられない光景がうつる。

 セーラが愛剣のジ・レットを引き抜く姿。

 ジェノが茫然と見つめる前でセーラはレットを振り上げると、腕を落とすのではないかと思うほどの速度でレットをもう片方の腕に振りぬく。


 キィン!


 ジェノは無意識のうちにゴクリと唾を飲み込む。

 ジェノは今のセーラの一太刀を向けられたら、自分は避ける事ができたのかと考えるが、思わず唾を飲み込んだのが答え。


 だが、更にセーラは驚くべき行動に出る。セーラの魔力がレットに流され、みるみるセーラの気配が膨れ上がる。レットの能力によりセーラの身体能力が爆発的に引き上げられる。


 そのままセーラは、再びレットを振りかぶる。


 キィン!


 先ほどより大きな音がなる。ジェノの目には振り上げた状態から、剣は突然腕に叩きつけられていた。

 ジェノには振りぬかれた軌跡を目で追う事ができなかった。


「ジェノ、これが私の悩みです……」


 セーラの言葉にジェノは何も答えられずにいた。

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