第8話 勇者シュウダの執事

 王宮内の庭園


「ここの庭園はやはり美しいですね」

「はい、セーラ様。ここの庭園はエルフの方が見ても美しいと言われたそうです」

「エルフの方が、ですか……」


 エルフは世界樹のそばで生活をする人々。人や獣人、ドワーフよりも長命で自然の中で生きる。

 そんなエルフが育てる庭園は、沢山の種族が死ぬまでに一度は見てみたい景色の中に入れるものであった。


 そんなエルフが人の作った庭園を見て、美しいと言った事にセーラは驚くのだが、そんな美しい庭園を前にしてもセーラの気分は晴れなかった。


 庭園でセーラにお茶をすすめたジェノであったが、一向にセーラの顔が晴れないためある提案をした。


「セーラ様、今からシュウダ様のお部屋を訪ねませんか?」

「シュウダの?」

「はい。ここ数日、セーラ様はシュウダ様とお会いしていないのではないかと、思いまして」


 ジェノはそう言うとセーラの顔をじっと見つめる。

 だが、セーラの顔は晴れる事無く、辛そうな顔のままであった。


「申し訳ございません。出過ぎた真似をいたしました」

「ジェノは悪くないんです……そうですね。最近はあまりシュウダの顔を見てはいませんし、部屋を訪ねてみましょう」


 そう言うと2人はシュウダの部屋を目指し、庭園を後にするのであった。


 コンコン


「どちら様でしょうか?」


 ジェノがシュウダの部屋の扉をノックすると、中から返事が返ってくる。


「サイドですかジェノです。セーラ様がシュウダ様とお会いしたいのです」


 そうジェノが言うと部屋の扉があき、そこにはシュウダが立っていた。


「セーラ? 久しぶりだね。どうぞ中に入って」


 シュウダはセーラの顔を見るとニコリと笑い、セーラを部屋の中に招き入れる。

 セーラがシュウダの部屋に入り、用意された椅子に座るとジェノがサイドに話しかける。


「サイド、少し話があります」

「……わかりました。シュウダ様少し席を外してもよろしいでしょうか?」

「うん、大丈夫だよ」

「では、失礼いたします。セーラ様どうかごっゆくりと」


 そう言ってシュウダの執事のサイドは部屋を出る。

 ジェノとサイドは、シュウダの部屋の近くにあるテラスに向かい、誰も周りにいない事を確認すると話はじめた。


「姉ちゃん! シュウダ様が! シュウダ様の様子がおかしいんだ!」

「大きな声を出すんじゃありません! 誰かに聞かれたらどうするの!」

「だって! 勇者様があんな暗い顔をしてるの、俺見てられねぇよ!」

「声が大きいと言っています!」


 セーラにジェノが居るようにシュウダには執事のサイドが居た。サイドは、勇者の身の回りの世話や政務の手伝いをし、ジェノと同じくシュウダの護衛でもあった。ジェノとサイドの2人は兄妹で、2人きりになると素の口調に戻る。 


 勇者よりも少し背が低く、若いサイドはシュウダの弟の様に見えるが非常に優秀で、ジェノと同じく独自の権限を持っていたために、この兄妹を敵に回してはいけないと王宮内で密かにささやかれていた。


「シュウダ様もですか……はぁ……」

「姉ちゃん? もしかしてセーラ様も?」

「ですね、お2人に何かあったのかもしれません」

「何があったんだろう? あんなお似合いのお2人なのに……」

「……いえ、2人にと言いましたが。何かあったのはセーラ様はだけかもしれません」

「セーラ様に⁉ 姉ちゃんはなんか聞いてないの?」

「残念ながら何も……」

「姉ちゃんにも相談できないの? いったい何が……」

「今朝その事でお話をセーラ様としましたが、今は相談できないと言っていただいたので、近々お聞きすることができるかもしれません」

「それなら、大丈夫かな……でも早くセーラ様に相談して欲しいなシュウダ様の暗い顔なんて見たくないよ」

「もちろん私もセーラ様の暗い顔などみたくありません!」

「姉ちゃん声、声」

「失礼。サイド心して聞きなさい。今から話す事は、決して誰にも話してはいけません」

「⁉ ハーゲン様やラーン様にも⁉」

「はい、あのお2人にもです」


 ジェノの言葉を聞いた、サイドはジェノの弟の顔からシュウダの執事の顔付きにもどる。


「わかりました」

「先日、セーラ様は自室で倒れていらっしゃたのです。しかも、旅で使われていた愛剣のレットを抜いた状態で」

「⁉ 誰かがジェノさんいない間にセーラ様を襲おうとしたのでしょうか?」


 ジェノの言葉に冷静に返すサイドであったが、その形相は鬼の様に歪んでいた。

 サイドは、普段シュウダの執事をしているが、セーラの事もシュウダと同じように大切に思っていた。


「いえ、その様な事はありませんでした。ですが、その時のセーラ様は自分の服の袖をまくっていたのです」

「まさか、自分の腕を切ろうと⁉」

「わかりません、ですがセーラ様に傷などありませんでした」

「セーラ様は袖をまくってレットで何をしたんだろう」


 セーラに傷がないと知るとサイドの口調は再度素のものとなる。


「わかりません……ですがサイド、私達はお2人の敵がいた場合は?」

「ジェノサイドします」

「よろしい、私達は2人は、セーラ様とシュウダ様のお2人に害をなすものが生きる事を許しはしませんよ」

「はい、僕達を助けてくれたご恩は、お2人にこの命を持ってお返しします」

「よろしい、敵はいないと思いますが十分に気をつけるのですよサイド」

「はい!」

「そろそろ部屋に戻りましょうか」

「はい、ジェノさん」

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