第7話 セーラとジェノ

 セーラは少し考えた後、ジェノの目を見て答える。


「本当にいいのですか? 後悔するかもしれませんよ?」


 そう言ってセーラはジェノの目を見つめるが、ジェノは見つめられた瞬間に返事をする。


「はい! いつでも相談をお待ちしております!」


 そう返事を返すと、ジェノはセーラの目を、力強くみつめかえす。


「そうですか……ジェノありがとうございます……私は、貴方の事を本当の姉の様に思っています……」


(んほぉ~!)


 ブパッ!


 ジェノはハンカチをさっと取りだし、それで涙をぬぐいさる仕草でごまかしながら、鼻血をふく。


「そう言ってもらえると、このジェノ涙が出ます……」


 そう言って、鼻血をふき終わると、ジェノはセーラに尋ねる。


「では、相談は後日にして。本日はどのように過ごされますか?」


 セーラの言葉を聞き、ジュノは今日の予定をセーラに尋ねた。


「今日は、午前中のうちに王宮にある庭園に行ってみたいと思います。それ以降の事は、特に考えていません」

「庭園ですね、かしこまりました。」


 ジェノはセーラに返事をすると、朝食の食器をかたずけはじめる。


 セーラはジェノが食器をかたずけている姿を見て、ふと思う。


(ジェノは私の質問になんでも答えてくれるけど、ジェノはもし自分でどうにもできない事があったら誰に相談するんだろう?)


 ジェノの姿を見ていたセーラは不意にそう思い、思わず尋ねる。


「あの、ジエノ。もし、あなたが自分だけでは、答えが出ない問題に直面した時、あなたは誰を頼りますか?」

「……そうですね、私ならセーラ様が一緒に旅をされたラーン様に頼るかもしれません」

「……なるほど……ありがとうございます。もし、ジュノがわからなければラーンさんにも聞いてみます」

「いえ、私などに聞くより大賢者ラーン様に先に聞く方が良いかと思います。ですが、ラーン様に聞きにくい事であれば、先ほども言いましたが私にご相談ください」


 ジェノの言葉を聞き、セーラは頷く。


「ありがとう、私が最初に頼るのは、先ほど言ったように姉の様に思っているジェノです。今は、無理ですが、必ず近いうちに相談をしたいと思っています……その時はどうかお願いします……」

「セーラ様のご相談であれば、いつでもお聞きします。それが朝だろうと、真夜中だろうと……」


 ジェノは朝食の後かたずけを終えると、部屋をでる前にセーラに挨拶をする。


「ではセーラ様、一旦失礼いたします」

「はい、ありがとうございました」


 セーラは、ジェノが部屋を出るのを見届けると、ポツリとつぶやく。


「ジェノありがとう」


 セーラは1人になると、部屋にある本棚の前に移動する。


「私もこんな恋が早くしたい……」


 そう言ってセーラが本棚から手にしたのは、恋の物語がかかれた本。セーラは、物語の様な白馬の王子様にあこがれていた。


 そして、実際に白馬の王子様はセーラの前にあらわれた。

 歴代最強と言われる、勇者ム・シュウダ。

 勇者と一緒に旅をはじめた頃のセーラは、魔王を倒さなければならない使命感に溢れており、勇者を異性と見る事はなかった。


 だが、旅をするにつれて、苦難や死地を共に乗り越え、セーラは勇者へ恋心をもちはじめる。

 魔王討伐の旅は過酷なものであり、いつしか使命感に押しつぶされそうになっていたセーラは、勇者がそばにいるだけでそれに耐えることができた。


 たがそれは、勇者、ム・シュウダも同じであった。

 シュウダは旅の中、何度も死線をくぐり、何度も死んだ方が楽なのではないかと思う怪我をおう。

 そんなシュウダの心と体を癒すのはセーラの笑顔と魔法であった。


 いつしか、2人は惹かれ合う。


 しかし、2人の中にある使命感と、セーラの悩みが、2人が心の距離を縮める事を阻んだ。シュウダがセーラを望むも、セーラは今はまだ旅の途中という事と、勇者に話せない悩みがあると、勇者の望みを受け入れなかった。


 魔王の討伐も果たし、シュウダを受け入れられなかった原因、長年のセーラの悩みも、女神から与えられたスキルにより解消され、セーラの心は歓喜で満ち溢れていた。


 だが、そんな喜びの絶頂にいるセーラを、ムダ毛の処理ができないと言う新しい悩みが、絶望の淵に叩き落す。


 セーラの心は今、魔王討伐の旅の途中よりも苦しいものであった。

 

「気がまぎれませんでした……」


 セーラは、そう言って読んでいた本を閉じると、ポツリと呟く。セーラが今の悩みをシュウダに打ち明ければ、シュウダはきっとこう言っただろう。


「俺が好きなのはセーラの全て! ムダ毛を気にする必要なんかない! セーラの全てが好きなんだ!」


 セーラもきっとシュウダはそう言ってくれると思っていた。


 だが、セーラ自身がそれを許せなかった。


(シュウダなら私の顔に醜い傷があってもきっと愛してくれる! でも私は、自分が思う、最高の状態の自分を見て欲しい!)


 その二つの思いがあるからこそ、余計にセーラを苦しめる。




 コンコン


「ジェノです、ただいま戻りました」

「おかえりなさいジェノ」

「セーラ様、そろそろ庭園に向かわれますか?」

「はい、行きましょう」

 そうセーラは返事をすると、ジェノと一緒に部屋を後にするのであった。

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