第5話 吹山さんと赤間くん

 赤間くんの話す声が研究室内に響く。

 学生が何人か各々のデスクに座っているが、話しているのは赤間くんだけなので、彼の声がよく聞こえる。

 彼は、決してすごく出来の良い生徒というわけではないが、その分「わからない人」に寄り添うことができる人なのだ。

 吹山さんへの基礎レクチャーが終わっても、引き続きのフォローを申し出てくれた。

「……という感じで、論文とかレポート書くにも書式とか、フォーマット、流れ的なのがあるわけね」

「はい」

「剽窃しちゃだめっつー基本のルールと、フォーマットを頭に入れて書かないといけないわけです」

 僕が所用で離席していた間、赤間くんが続きの説明を買って出てくれたのだ。

 吹山さんは神妙な顔をして赤間くんの話を聞いている。

「どう? 赤間くんの説明、わかった?」

「あっ、先生、おかえりっス」

「ごめんごめん。ありがとうね。いや、しかしちゃんと説明してくれてたね」

「嫌だなせんせ、見てるなら早く声かけてくださいよ」

「で、どう? レポートしてみようかな、と思うようなテーマ、何か見つけた?」

 そう言うと、僕は吹山さんを見た。

 吹山さんの顔は、瞬時に能面モードに移行する。

 実はここに来るようになって数日、ずっとこうなのだ。

 僕だけに、いわゆる、塩対応。

「そうそう。簡単なのでいいんだよ。例えば……」

「例えば……発炎魔法にはナランハ式とジンガ式がありますよね。その2つの火力コントロールはそれぞれ違う理論で成り立っています。その体系の整理とか、なんでそうなったのかとか、入れ替えたら何故発動しないのか、とか……そういうのでも?……簡単すぎますかね」

 赤間くんがえっ、と呟いて固まるのが見えた。

「なにそれ賢すぎか」

「すごい! 面白いところに目をつけたね! ちゃんと研究したら十分形になると思うよ」

 僕がそう答えると、むっとしたように吹山さんがつぶやいた。

「……もしくは」

「もしくは?」

「「使えない人」が魔法を使う方法について」

 そう言うと、吹山さんは僕を見た。

「使えない人」というのは、魔力の無い人に対する若者の蔑称の一つだ。

 今度は僕が黙る番だった。

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魔法大学の助教さん2。〜魔道士の種と月隠りの魔法陣〜 荒城美鉾 @m_aragi

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