第2話 営業さんも、現る。

 彼女、吹山橙子は僕に向かって、不機嫌そうな目を向けた。

 現在、試験的に魔法科学については飛び級制度が検討されている。彼女は高校生でありながら、うちの大学の研究室に見学にしばらく通うことになっていた。企業でいうなら、インターンシップのような取り組みだ。

「えーっと…」

 しかし、僕はたじろいだ。やる気のない学生もいる。しかしまさか、見学生がここまで不機嫌、むしろ敵視に満ちた視線を送ってくるとは思いもしなかったのだ。

 僕が言葉を探していると、唐突に研究室の扉が開いた。

「はぁーい! 呼ばれてなくてもやってくる! ライアーま・ほ・う商会♪ ライアー魔法カンパニー、ク・ロ・イ・シみかげ、でーっす!」

 しん、と研究室が静まり返る。響いた調子っぱずれの歌は、ライアー魔法商会のテレビCMサウンドロゴだ。一世を風靡したCM、と彼女は言うのだが、僕は良く知らない。まあそれはそれとして、あまりに突然な登場に、僕も吹山さんも他の研究室の面々も、思わず固まってしまった。

 戸口に立っていたのは、ライアー魔法カンパニーの営業、黒石みかげさんだった。

「あり? ありあり? せんせ、どうかしました?」

「黒石さん…すみませんがもう少し静かに来てもらってもいいですかね? それと、うちにマメにきてもらっても、うち、あんまり余裕ないんで、いうほど大きな発注できないんですけど…」

「ええー!? やだなぁ白川せんせ、そんなことくらい知ってますよーう。だって…」

「あーっ! こら一年生、マジワイプで机の汚れを拭くんじゃないっ! マジワイプはなー、魔法の痕跡をしっかり消すためのもんで、普通のティッシュじゃないんだ!  高いんだぞ!」

 部屋の奥で学生の赤間君が叫んでいるのが聞こえた。

「研究費が湯水のごとくある研究室は、マジワイプもけちけちせずに使いますからね。知ってました? 営業が見るのはそういうとこなワ・ケ!」

「じゃあなんでうちに来るんですかね…?」

「やだなぁ、白川せんせに会いたいからに決まってんじゃーん! やーだ、せんせ、何言わせてくれちゃってんの!?」

 そう言うと黒石さんは僕の肩をバシバシと叩いた。僕は黒石さんの軽口に、ため息で返事をした。

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