第5話


夏も終わり、秋も深まった頃、小さな村では周りの村との交流なども兼ねた

収穫の祭りの準備が始まった。


普段なら、結婚式、葬儀などの時以外それほど忙しくない聖堂であったが、

祭りは周囲の村の連帯や、神への感謝の祭事ということもあり、

村の小さな聖堂といえども大忙しになった。


ロイはおそらく比較的長く聖堂に奉仕している人物だ。(しかし年齢のために修道士見習い。)


それもあってなのか、高齢の神父様の補佐として、祭りの際には村々の村長を取りまとめる係だった。村長たちも所謂プライドがあり、お互いに決着が着くように上手く取り計らわなければならなかった。

普段の仕事は慣れたもので、人の二倍近い仕事量をそつなくこなす。

しかし、そんなロイの手にかかっても収穫祭の始まる1か月前の準備は忙しさを帯びてくる。村々で担当するの出店や、特別な出し物の提案など。また音楽家の手配など、仕事は多岐に渡る。途方もなく忙しかった。


そんな中、修道士でもない療養のため保護されているだけのジゼルは、

教会の中で、洗濯や掃除、料理などの家事をこなす以外に手伝う術は無かった。

しかし、それも結構な労働だ。一日、一日とロイとのすれ違いが続いていた。


待ちに待った祭りの日


ロイは朝から大忙しだった。

そしてあっという間に夜になった。

普段は村の中心とえども真っ暗になる聖堂前の広場が

今日はイキイキと音楽家たちの演奏が流れ、出店の光で輝き、御馳走の匂いが所々からした。

村々から集まった人々は酒を酌み交わし

ある者は踊り、ある者は食べ皆好き好きに過ごしていた。


ジゼルも見物に広場をうろうろしていた。しかし、足元に何か通ったようで転びそうになった。

「うわあ!」

その瞬間、ジゼルの顔はすぐに何か暖かいものに埋もれた。

「ジゼル、こんなところにいたんですね。探したんですよ。」

「ろ、ロイ!」


どうやら埋もれたのはロイの胸だったようだ。ジゼルの顔が一気に赤くなった。

最近、会えていなかったことも相まってジゼルはギクシャクした。


「ほら、これ、君にあげたいと思って。」

「え?」


それをみてジゼルは目をぱちくりさせた。

みたことがないものだったからだ。


ーーーーーガラスの靴?


「これってどうしたのロイ?」

「ふふふ、それは秘密です。」


ロイの手の中でガラスの靴は祭りの屋台の光を反射して七色に輝いた。ジゼルは先程の質問も忘れて美しさに驚嘆した。

「うわぁ」


「これ、履いてみて。」

「本当に、いいの?」

「君のために用意したから。」

ロイが優しく笑いかけながらしゃがみ込んだ。


ジゼルはあまりの出来事に遠慮や、恥じらいなど全てが吹っ飛んで、思考停止してされるがまま。

ロイは、丁寧にジゼルにガラスの靴を履かせてくれた。 


ジゼルの教会内で配布されている給仕服とガラスの靴は不相応だった。しかし、ロイは実に満足気に靴を見つめて、うんと頷いて言った。

「まるでどこかの国のお姫様のようですね。」


そして立ち上がり、さっと手を差し出した。

「え?ロイ?」

「あれ、ジゼルは、僕とのダンスを断るんですか?」


ジゼルははじめどうゆうことか分からなかったが、ロイから言われてダンスの誘いだったことが理解できた。

「でも私は踊りなんてできないし、ロイは修道士様で・・・」

「何度もいってますが、僕は修道士見習いですよ。」

いつもの会話で遮られロイはジゼルの手を華麗に掬いあげた。

そして、そのままダンスの輪の中に入った。


ジゼルの靴は陽気に鳴った。

人々の間をすり抜けるように、 自分たちの世界がそこにはできていた。

もう、外聞など、どうなってもよかった。


出店の光があの日の蛍のように美しく光って、二人の世界を沸き立たせていた。

一匹の黒猫がそんな二人を闇の中から見つめているとも気付かずに。

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