第3話

その日以降、ジゼルは体の治癒のため思うように動けないのと、おばあさんを亡くした喪失感で

生きる気力を失っていた。


そんなジゼルのためにロイは毎日食事を持っていき、服を着せ替え、聖書を読み聞かせ、無機質な部屋に唯一の飾りである花瓶の花を変えてくれた。


ロイはジゼルより少し年上のように見えたが、優しく、気さくで、引っ込み思案だったジゼルにとってロイはとても話しやすい数少ない人間だった。

ジゼルが物心ついた頃にはもうロイは、修道士見習いとして、聖堂で神父様とともに暮らしていた。

ロイはいつも妹のようにジゼルを思ってくれているようで、礼拝の後に振る舞われるパンやワインなどが余るとよくおばあさんと私の家まで持ってきてくれていた。

しかし、そんなロイの優しさも、今のジゼルにはなんの意味もないような感覚さえしていた。そこまでジゼルは落ち込んでいた。


「ジゼル、少しは食べないと、元気が出ませんよ。」


「ロイ、ありがとう。でも今はそうゆう気分にはなれないの。

おばあさんは、ご飯もう、食べれなくなっちゃったでしょ。だから、私も。。」

「ジゼル。。。おばあさんはきっとジゼルが食べないと、心配してしまいますよ。」


自分から言っておいて、おばあさんの名前が出ると、やはり自然と視界がぼやけて見えた。

そして、目に沢山溜まったそれが、はらはらと頬を濡らした。

悲しみはジゼル自身が思っている以上に深いようだった。


そしてジゼルがロイの助けがなくても歩けるようになる頃、

青葉が茂り、解き放たれた自由を讃えるかのようにクチナシの匂いが舞っていた。

夏が始まりを迎えたのだ。


「ジゼル!見せたいものがあるんです。夕食の後、一緒に外に行きましょう!」

外は暗い。ジゼルは乗り気じゃなかったが、でもロイがあまりに嬉しそうに言うので、

夕食の豆のシチューを食べた後、仕方なくついて行くことにした。


暗いのはやはり慣れない、あの夜のことを思い出すから。

あの夜、闇に中に、さらに暗い魔獣がいて、その対称に魔獣の白い歯や紫に光る目が、一瞬だったがよく見えた。

息を荒げる魔獣の唸り声。それが今でも聞こえてくるようで、ジゼルの手は自然とロイの腕をしっかりと掴んだ。


その手に気付いたのか、ロイがジゼルの手の上に自分の手を重ねた。

「やっぱりちょっと肌寒いですか?」

「・・・。」

見当違いの質問にジゼルの緊張が緩んだ。魔獣がいる訳はないと分かっていたが、気の張っていた自分が馬鹿みたいに思えたからだ。

「っくっふふふ。ありがとうロイ。大丈夫。」

笑ってはいけないと思っても笑ってしまう。ロイは久しぶりに見るジゼルの他愛無い笑顔に(ロイ自身は意味は分ってないけれど)つられて口角が上がった。


すると突然、光が視界の隅を走っていった。

「あ!」

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