第2話
その瞬間、助けの声がした。
「ジゼル!」
ロイの声だ。魔獣はジゼルから瞬時に身を離し、ロイを確認するとすぐさま逃げて行った。
朧げにジゼルは見ていたが不思議な光景だった。
何故、ロイは襲われなかったのだろう。
そんなことをふと考えながら、襲われたショックと安堵で一気に血圧が下がりその後のまま気を失った。
気がつくと、教会の一室のようだった。
「ジゼル起きましたか。」
ロイが心配そうにジゼルの顔を覗き込むようにして言った。
「ジゼル具合はいかがですか?首の怪我は痛みますか?」
「ロイ・・修道士。」
ジゼルははじめこそ状況把握に時間がかかったが、
すぐにハッとして一番、気になって聞きたかったことが、ロイの質問の答えよりも先に口に出た。
「お、おばあさんは?!おばあさんは!!」
ロイは一番聞いてほしくなかったことを聞かれてしまった。そのような様子で、目が一回大きく開いたあと、静かにゆっくりと答えた。
「おばあさんは・・・僕が行った時には既に亡くなって…ました。」
ジゼルは、薄々勘づいてたものの、やはりその言葉を聞いても理解できなかった。
理性では分かっていても、感情が置いてけぼりだった。
お昼におばあさんと食べた豆のシチューの匂いだってまだ洋服に残ってる
おばあさんが、「ジゼル大丈夫かい?」なんて、、うちに帰ったらすぐ迎えてくれるようなそんな気がしたから。
「おばあさんは今どこにいるの?」
「礼拝堂で御神とともに。一緒に会いに行きますか?」
「・・・お願いします。」
ジゼルは一瞬躊躇ったが、やはり唯一の家族だったおばあさんにすぐ会いに行きたかった。
小さな村の小さな聖堂ではあったが、礼拝堂には立派なステンドグラスが施されており、
字が読めないジゼルのようなものでも、神様を知れる場所だった。
普段は美しいその場所に小走りで向かうジゼルだったが、この時ばかりは怪我と現実を目の当たりにする恐怖からジゼルの歩調はとても重いものだった。
そして礼拝堂の説教台の横に
棺は佇んでいた。
ジゼルの体はジゼル自身が思ってた以上に傷付いていたようで、立つのも痛みが走りやっと歩いている状態だった。
ロイはそんなジゼルを痛みから庇うように、肩を貸しながら、おばあさんの元へと連れて行った。
棺の中でおばあさんは静かに眠るようにして亡くなっていた。
ああ、やはりあの魔獣はおばあさんを迎えに来るために使わされたのだ。
魔獣はもともと、名前に反し死を司る神聖なもの。死を迎えた人間のもとにくると言われている。死を不吉なものとする人間の都合で結局は魔獣と名付けられたのだ。魔獣も他の獣と同様に生きた人間を恐れており、遭遇した人を襲うのは当たり前のことだ。
棺の中に手を差し出してみた。動きそうな気がしたから。
おばあちゃん、、
動かなかった。
やはり、死そのものが今ジゼルの目の前にはあって、おばあさんとの様々な思い出が
走馬灯のように過ぎ去った。
先ほどまで、理解できていなかった点と点が線で結ばれて、
ジゼルは冷たくなってしまったその手を握りしめ、自分の頬に沢山の涙が流れて行くのを感じた。
「あああ!・・・・ああああ!」
もっと、一緒にいたかったのに。
ジゼルは立てなくなり、その場にへたり込んだ。
痛かった。その痛みさえ、自分とおばあさんを隔てるもののように感じ。憎く思った。
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